第5話「それって、放課後デートってヤツ!?」

夏休みが明けて少し経つが、まだまだ気温は高くじわじわと僕の体力を奪っていく。


「あ、あつい……」

「えっ? あ、そうだね」

「ん……?」


言われてから気づいた、いや、今でもわかっていないけれど合わせているような様子に、僕は違和感を覚えた。

よくよく見てみると、夕日が差しているその白い肌には汗一つかいていない。


「……もしかして小雪、暑くない?」

「えっ、やっ、そんなことは……誤魔化しても無駄だよね……」


観念したように小雪はがっくりと項垂れて言う。


「薄々自分でも思ってたんだけど、私って『暑い』とか『寒い』みたいな温度の変化はわかるんだけど、汗をかいたり鳥肌が立ったりとかはしないみたいなんだよね」


小雪はそう言って困ったような表情を浮かべる。


「そう、だったのか」


彼方小雪は、僕によって錬成された人間だ。

だから小雪のこと、特に性質に関して言えばかなりよく知っているつもりだった。

しかしながら、僕は小雪の今言ったような性質を知らなかった。

僕は案外、小雪のことを理解できていない。もう少し、小雪について知っておいたほうがいいのかもしれない。

だから僕は、一つ提案をすることにする。


「なぁ、小雪」

「ん?」

「どっか寄って帰るか」

「それって、放課後デートってヤツ!?」


小雪は、きれいなその瞳を大きく見開き、爛々と輝かせている。

立っているだけで汗をかいてしまうほどに暑い夕日が照りつける中、彼女だけは涼しい雰囲気を纏っていた。


「どこに行こうか……小雪、どこか行きたいところはある?」

「え? うーん……」


訊かれた小雪は、先程とは一転してうんうんと頭を悩ませる。本当に表情がよく変わる。これも僕は知らなかった。


「ない……」


しばらく歩きながら悩んだ後、がっくりと項垂れた小雪の口から出てきた答えはそれだった。


「そうか……僕もこういう経験はないからよくわかんな――」


い、と言おうとしたところで、男女二人のカップルらしき人物が僕の目に入ってきた。かなり仲が良さそうで、二人は腕を組んでいる。

二人が出てきた方を見てみると、ゲームセンターがあった。


「あそこ、行ってみようか」

「ゲームセンター?」

「うん」

「いいね! いこういこう!」


小雪は意気揚々とゲームセンターに向かって僕の手を引いて走っていく。

僕は急に引っ張られたことで転びかけたがギリギリのところで体勢を立て直して、小雪に合わせて走る。

ゲームセンターに入ってすぐに聞こえたのは、耳をつんざく爆音だった。


「わっ……」


外とは段違いの音の大きさに驚いた小雪は、両手で耳を塞ぐ。

僕もあまり慣れてはいないので、頭に響く音の大きさに顔を顰めた。

国民的人気ゲームのアーケード、様々なコインゲーム、ゾンビを撃ち殺すゲームなどなど、様々なゲームが入り口から見渡しただけでも確認できる。


「さて、どれから行こうかな……」


つぶやきながら小雪の方を見る。正直僕はゲームセンターに来た経験などほとんどない。最後に来たのがいつだったかを思い出すのにも一苦労する。どの筐体が楽しいのかも全くわからないので小雪が興味を示したものをやろうと思ったのだが……。


「うー……」


小雪は入ってからというものの、ずっと耳を塞いで渋い顔をしている。更にはしゃがみ込み始めた。


「ゲームセンターはやめておくか」


苦しそうな小雪を見ているのが心にクルので、僕はしゃがみ込んでしまった小雪の片方の手を取ってゲームセンターを出る。


「ごめんね、せっかく行こうって言ってくれたのに」

「いや、いいよ。小雪が辛そうな顔してるの嫌だし……」


言ってから、なんだか恥ずかしいことを言ってしまったような気がして、僕は頭を抱える。


「どうしたの?」

「い、いや……なんでもない……」


言い慣れていないから恥ずかしく感じるのか……?小雪は全く気に留めていないようだし、そんなに恥ずかしいことでもないのか……?


「ねね」


ゲームセンターの前で頭を抱えていると、小雪がまた上目遣いで話しかけてきた。

サラサラと流れている髪が重力に引かれてしなだれる。そこから覗く顔がとても可愛らしく見えてしまって、緊張を覚える。


「コンビニ、行きたいな」

「え、いいけど……なんで?」

「だって錬太郎くん、とっても汗かいてるし。放課後デートはしたいからまだ帰りたくないし」

「……そっか」

「うん」


今のセリフは、小雪に教えた覚えはない。もしかしたら勝手に何かで学んだのか……?

しかし、よく見ているなと思う。

ゲームセンターは冷房は効いていたものの、爆音に気を引かれてそこまで感じられなかったし、その上すぐに出てしまったからほとんど涼むことができなかった。

そのあたりをちゃんと気にするのは少し意外だった。だって転校初日からあんな発言をするものだから……もしかしたら、あの発言はあの発言で、なにか別の目的や理由があって言ったのかもしれないが……今は考えないでおこう。

小雪に言われた通り、コンビニに行くことに決めた僕はスマホでコンビニを探す。小雪を作るまでずっと一人暮らしで、友達もほとんどいない僕にとって、本屋とスーバー以外は基本行くことなどないため、どこに何があるかなど全く覚えていない。

幸いにも徒歩五分もしないところにあることがわかったので、ひとまずそこを目指して歩き始めた。

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