昼休み

「ん〜、おなかすいたー」


「……なんで対面に座る」


「一緒に食べたいから?」


 こいつ……。


「綾人と同じクラスで良かったよ、誰も仲良くしてくれなさそうなんだもん」


 春に向けられている視線は多分、クラスのものだけではないだろう。意図せずして、去年の冬の景色が蘇る。感じるのは罪悪感で、口の中の水分が飛んでいくのを感じる。


「これは綾人のせいじゃないよ」


 それに気付くのは、やはり幼馴染みと言うべきか。


「ありがとう」


「ということで、卵焼きもらい!」


「……よし、俺は他の人と食べてくるから後は頑張って」


「ねえ待って、ごめんって!」


「失礼、椎名春さんはいる?」


 二人で……いや、ほとんど春が一人で騒いでいると、教室の入り口から春の名が呼ばれる。


 二人で視線を向けると、あちらの人は気づいたようにこちらに歩いてくる。リボンの色からするに、3年生だろう。


「初めまして、演劇部部長の鈴木です」


 この一言で、俺と春は要件を理解する。


「勧誘ですか?」


「話が早くて助かります」


 ニコッとする鈴木さんに対し、春は露骨に嫌そうな顔をする。


「お誘いいただきありがとうございます。ですが、部活をする気は無いので、お引取りください」


「見学だけでもする気はない?」


「ないです」


 食い気味の答え方に、鈴木さんは苦笑いになる。


「また来るわ」


 そう言って、どうやら今日のところはお引取り願えたそうだ。こうまで即答されると、勧誘もし辛いだろう。


「そんな顔するなって」


「だって」


「ほら、卵焼きもう一個やるから」


 弁当を差し出すが、春の顔は変わらない。


「……あーん」


「じゃあ、ぼっち飯頑張って」


「だからごめんって!」


 こんなことをしている間に、昼休みの時間はかなり少なくなっていた。


 納得しない顔で卵焼きを箸で摘んだ彼女は、しれっと右手を使っていた。


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