椎名春

「ねえほんとに椎名春がいるよ!」


「顔綺麗……」


「俺、告白してこようかな……」


「あの男誰?」


 この隣に歩く幼馴染みこと椎名春は、有名人だったりする。そのため、廊下を歩くだけでこの騒ぎだ。


「ねえねえ綾人、お腹すいた」


「俺は胃がいてえよ」


 つんつんと脇腹をつついてくる春を見下ろしながら嘆く。


「てか、朝ご飯は?」


 腕時計の針が指し示す時刻は、まだ午前9時前だ。流石に早すぎる。


「もうこの左手は私のじゃないから、勝手に使うのはまずいかなって」


「……」


 そういやこいつ左利きだった……。


「とりあえず日常生活に支障の出ることはちゃんとしてくれ……授業が始まったらノートも取れないだろ」


「それは大丈夫。全部覚えるから」


 深いため息と共に思う。そういえば、彼女の根本的な才能はそこにあったのだと。


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