第15話 とんでも依頼がきた
ずっと前に所長にも言われたことがあるけど。自分はただ、自分の思うようにやっているだけだ。要はあまり深くは考えない、バカなだけだ。
「大翔さんがさ、これからも兄貴を世話してやってくれたら俺は安心だな〜」
そう言って隼人はヘヘッと笑うと「じゃ、この話は終わりだからね!」と言って、ハンバーガーを堪能し始めた。
そんな締めをくらったら、もう言い返すことはできない。自分も色々考えながら、ハンバーガーを口に運んだ。
(これからも、か……これからも自分はずっとこの仕事を続けていくんだろうか。あの男のために? ……いや現実的じゃないかも。自分は何をしていきたいんだろう)
そんなことを考えていた時、トートバッグに入れていたスマホがメールの着信を知らせた。会社からの連絡だと思い、大翔はスマホを取り出して確認する。送り主は高澤所長だった。
『お疲れ様です。まだお仕事中にすみません。来週のサービスで急なものが入ったので、お手隙の時に大翔くんの都合を教えてください』
こんな内容は初めてだ。
だって所長は自分の予定はパソコンで調べることができるというのに。なぜ自分の都合を聞いてくるのだろう。
メールには続きがあった。
来週――とある日から別の日までの三日間。外出同行、遠方へのサービスとなるので出張扱い。
(え、三日間の外出同行?)
それは三日間、その依頼主と付き添わなければならないということか。一体誰? きれいな人とかだったらどうしよう、緊張して仕事にならないかも……なんて邪な考えを抱きながらメールを読み続けていくと、依頼主の名前が下の方に記載されていた。
「――なにぃっ⁉」
思わずハンバーガーを吹き出しそうになったので慌てて口を押さえた。自分の様子にただならぬものを感じたのか、隼人が「どうしたの?」と声をかけてくる。
「ら、来週、三日間、出張になった」
そう言うと隼人は「すごいじゃ〜ん」と言った。けれど自分が難しい顔をしているので、なんかあったんだな、ということを察してくれたのか、心配するように首を傾げていた。
(だ、だ、大丈夫かな、これ。できるのかな、オレ。でもなぁ、オレだから頼んでくれてもいるんだろうなぁ……断ったらダメ、だよなぁ)
迷う、迷うけど。断るわけにはいかない。
大翔は一つ深呼吸をしてから隼人に告げた。
「一緒に出張行く相手がさ……相手がすげぇヤツなんだよ、隼人……お前の兄ちゃんなんだよ」
衝撃的な出来事だ。だが隼人は「おやまぁ」と軽く応えると急にニヤつき始めた。なんだか楽しんでいるように見えなくもない。
「へぇ〜、めーずらしいね。兄貴がどっか行くなんて絶対仕事なんだろうけど。大翔さんにお願いしたんだ? やっぱりねぇ~」
「やっぱりってなんだよっ?」
隼人は楽しそうだが自分は楽しめる事態ではないぞ。どう心を保っていたらいいんだ。
(べ、別に嫌じゃないんだけどさ! アイツのことは今は嫌いじゃない。ただ急にアイツと三日間も一緒って言われたら……ちょっと緊張じゃないか!)
複雑な気持ち。そんな自分を見て隼人は肩をポンポンと叩いてきた。
「大丈夫だって。それは兄貴が大翔さんを心底信用してるってことだよ。今までこんなことなかったもの。仕事で外に出たいけど出かけることができないって兄貴、言ってたことあるし」
「それは……頼られたら嬉しいけどさぁ」
だからといって大丈夫なのか。確かにスケジュールは空いている。どんなことをやるのだろう。ただ車椅子を押せばいいだけ、とかじゃないだろうな……。
やるべきことを所長や先輩方に聞いて下調べをしといた方がよさそうだ。
(……よし、せっかく信用を得たんだ、なんとか頑張ってみるか)
しょぼくれそうだった自分の気持ちに気合いを入れた時だ。
「大翔さん、一つだけ伝えておきたいことがあるんだけど〜」
ニコニコ顔で隼人は真向かいから内緒話をするように口に手を当て、顔を近づけてきた。反射的に大翔も耳を近づける。
隼人は耳をくすぐる甘い声で、ささやいた。
「兄貴、足なくても……ヤレることはヤレるから、気をつけてね?」
一瞬何を言われたのかわからなくて、大翔は口を開けてポカンとした。
そしてジワジワと言われた言葉が脳に浸透していく……と頭が熱くなった。
「バ、バカ野郎っ! なんなんだよっ⁉ ふざけるなよぉ!」
「なーんでよ? だって大翔さん、俺にあんなこんなされていたんだしぃ。その時の顔、兄貴も見ちゃってるから、まんざらでもないだろうしぃ。あ、でも最初に触れるのは俺がよかったなぁ、大翔さん、今からダメ〜?」
「ダメ! ってか、うるせぇよ、もーっ!」
人目もはばからずに叫んでしまった。熱い頭を冷やそうと思い、コーラを一気飲みしてやった。
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