第16話 特技は子守りだ!
「はいはいはーい、みんなこっちだ! あつまれーっ」
大翔の掛け声で、園庭で遊んでいた小さくて活発で、愛くるしい生き物達はワーワーキャーキャー言いながら大翔の元に走り寄ってきた。その数は総勢二十人。全員保育園児の年長クラスの子供達だ。
「ほれ、そっちじゃないっ、こっちだってばーっ。来ないと後でオレが追いかけ回しちゃうぞーっ」
大翔はわざとおどけた顔を作り、子供達に見せた。子供達はそんな大翔を見てまた騒ぎ出すと大笑いしながら、しっかり集まってきた。
「よしよし、みんなエライぞっ。この後はオヤツだろ? ちゃんときれいに手を洗ってうがいして静かに席に座るんだぞ!」
はーい、と一斉に答える快活な声。子供達は順番にベランダへ行くと、外の流しで手を洗ってから中へと入っていった。
「やれやれ、これで終わりか」
きっちり二時間、これも『猫の手』の一つの仕事だ。お昼寝明けで元気にあふれた年中、年長の順番に子供達の相手を終えると、自分もいくらか疲労感があった。
だが子供というのは相手をしていて楽しいものだ。変なことをすれば笑うし、かまうと素直に笑ってくれる。大人にはない、素直さの塊というもの。
「大翔くん、ありがとう。助かりました」
帰る支度をしていると柔らかい印象の中年女性――保育園の園長が挨拶をしてきた。
「いえいえ全然。オレ、子供の相手は好きですもん」
「ふふ、お若いのにすごいのね。子供達の相手にすごく慣れているからびっくりしちゃった、保育士にもなれそうよ」
「オレ兄弟が多くて。四人兄弟なんです。全員下なんで面倒とかしょっちゅう見てます」
「そうなの、まぁすごい。でもその技術が役に立っているじゃない。ぜひまた今度お願いしようと思っているから、お願いしますね」
園長の言葉に「はい、またお願いします」とは答えたものの、来週だけはもう出張という予定が入っているから無理なんだよな、と思う。
でもそれ以降ならまたやりたい。大変さもあるけど、バカみたいに騒ぐのが一番楽しい。今度、所長に「またやりたいです」とお願いしてみよう。
「さてさて次も子守りなんだよな」
保育園を後にし、大翔は自転車で現地へと向かった。行き先はわかっている、だってそこの仕事はもう数回実施済みだ。今度は住宅街の中にあるきれいな一軒家で、そこでの子守りを任されている。
けれど今度は年長さんじゃない、赤ちゃんが相手だ。でも赤ちゃんの相手も好きだ。だって赤ちゃん、フニフニして、かわいいもんな。
邪魔にならないよう塀に寄せて自転車を停め、一軒家のインターフォンを押すとすぐに「はーい」という男性の声がした。
「こんちはー、猫の手でーす」
インターフォンごしの「どうぞー」という返事を聞き、玄関を開ける。中はきれいなフローリングが眩しく、清潔感漂う玄関と廊下になっていた。
「あぁ、よかったぁ! 大翔くん! 来てくれて助かりましたっ」
廊下をスリッパでパタパタ走り、駆け寄ってきたのは眼鏡をかけた真面目そうな若い男性だ。その手には一歳ちょっとの赤ちゃんが抱えられ、遊んでもらっていると思っているのか「キャッキャ」と声を上げている。
「すみません、ちょっとバタバタしていてっ!」
「どうしたんすか?」
「もうね、今さっきなんですよ! 妻が産気づいたようで。急いで助産師さん呼んだんですけどまだで! 色々準備したいけど、この子も暴れていてぇぇ」
「ホ、ホントっすか! ほら、じゃあミーくんはこっちおいで!」
急げ急げ、と。大翔は赤ちゃんをしっかりと受け取ると上下に揺らしてあやす。赤ちゃん特有の肉づきと甘いミルクのようなニオイに、フフッと癒やされてしまう。
「ミーくんもいよいよお兄ちゃんになるんだなぁ、よかったな。弟がいるのはいいぞ〜? 一緒に遊べるし、取っ組み合いもできるからなっ」
ミーくんと呼ばれた赤ちゃんは抱っこされて「あはは」と声を上げて笑っている。きっとわかっているに違いない。弟の存在を待ちわびているのかも。
「じゃあミーくんはオレが見てますから。安心して旦那さんも出産に挑んでください。奥さんも応援してあげないとだし」
男性は「ありがとう」と幸せそうにほほえむと、ミーくんに使うためのオムツなどが入ったカバン、抱っこ紐を持たせてくれた。
大翔は慣れた手付きで抱っこ紐を装着し、前のカバーにミーくんを入れ、前抱っこスタイルを作った。
「大翔くんが子供慣れしていて、ホントに助かります! ミーくんをよろしくお願いします!」
男性に「了解っす!」と返し、ミーくんを抱っこしながら表に出る。ミーくんは日が少しだけ傾き始めた空を見つめて「うー」とうなっていた。離れるママを心配しているのかもしれない。
「大丈夫大丈夫、きっと無事に生まれてくるって。ミーくんは離れて応援してような〜。公園でも行ってようか」
また笑顔で返すミーくんを見ていると嬉しくなる。やっぱり赤ちゃんっていいよな。
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