第48話 すげぇタイミングだ
思い立った大翔が携帯を手にした時だ。ちょうど着信が入り、画面には今電話しようと思った人の名前が表示されていた。
「しめたぜーっ!」
思わず叫んだら隣のテーブル客がびっくりしていたので……目を合わせて頭だけ下げておいた。
「もしもし隼人っ! すっげぇいいタイミングじゃん! さすが隼人!」
気が急いて言葉が早口になった。電話向こうの隼人も『おわっ』と驚いていた。
『びっくりしたぁっ。あ、でも大翔さん、よかったよ〜電話出てくれて』
「オレもたった今、隼人に電話しようと思っていたんだ!」
『えぇ、マジ? たった今なんてすごくない? やっぱり俺達、運命かなぁ』
フザけた調子で言うものだから。それは「はいはい」と流し、本題に入る。
「それより、飛鳥さんがオレのことを切ったの知ってるだろ?」
隼人は『もちろん知ってるさ』と言った。その声は呆れているようにも聞こえる。
『ホントにさぁ、兄貴には、まいっちゃうんだよねぇ。せっかく兄貴の人生を導く運命の人が現れたのに。またそこから逃げようとしているんだよ、自分に自信がないからね〜あの人』
その言葉を聞いていると胸が針で刺されたようにチクチクしたが隼人は続ける。
『ああ見えて弱いんだ、兄貴は。強く見えても、そう振る舞っているだけ。自分が身体が不自由で大変なくせに僕の生活や進学とか、費用も大変なのに気にしたりさ……」
そう、飛鳥はそういう人間だ。自分のこともあるのに友人である高澤所長のことを過去に助けたり、異父兄弟でもある隼人の生活を守ろうとしたり。何かと自分を気にかけてくれたり。
弱い部分もあるくせに、アイツはいつでも強くあろうとする。自分を律しすぎてる、本当は支えてもらいたいところもたくさんあるはずなのに。
(だからこそ、オレは飛鳥を助けてやりたい)
電話口で唇を噛みしめていると『大翔さん、お願いがあるんだけど』という隼人の声が聞こえた。
『大翔さんは兄貴のこと、見捨てないだろ? みんなが普通に感じている幸せを兄貴にもあげて、兄貴が兄貴らしくいられるように。楽しく過ごせるように、支えていってくれるだろ?』
そんな隼人の問いを聞き、大翔は笑みを浮かべた。
「もちろんだって」
その答えしかない。
「アイツの世話をするのは、このオレだ。金の関係なんかじゃなく、もっともっと違うものでオレはアイツとつながっていたいんだよ」
隼人は楽しそうにククッと笑った。
『もー全く! そんなノロケ聞かせてさぁ。ホント、大翔さんて可愛くてかっこよくて俺、大好きだよ。兄貴がいなかったら俺のものにマジでしたかった。でも兄貴には大翔さんが必要だから今回はあきらめてあげるよ』
本気なんだか、そうでないんだか。隼人はそんなことを言う。なんだかんだで兄が大事な弟だから、へらず口も憎めない。
『それで兄貴なんだけどね――』
ハンバーガー屋を出て、すぐ近くの駅に向かい、電車に乗って別の駅へ。さらにそこから新幹線に乗って、ある場所へと向かった。駅名とかは、まだなんとなくうろ覚えだが覚えていたのでよかった。
向かっている場所はいつかも訪れたことのある駅。新幹線が目的の場所に近づくにつれ、高いビルや建物が増えていき、たどり着いた場所は都心のど真ん中。沢山のビルに囲まれた栄えた土地だ。
駅に降り立った途端、人がドッと新幹線から降りたり別の電車から降りたり。ホームはあっという間に人がわんさかと集まった。それぞれが目的を持って歩き、右へ左へ流れるように向かって、あちこちにあるエスカレーターで移動していく。
(あ、あの時は飛鳥がいたから教えてくれたかけど……で、出口がわかんねぇ、駅の出口……)
人の流れから離れて道の端に寄り、どっちの流れに乗ればいいのか、流れを見つめる。
(右か左か……飛鳥さん、どっちだよ、こっちでいいのか……?)
勘を頼りに、右に向かった。ホームを出てエスカレーターを上がり、多分見覚えのある改札口に出た。そこからはまた勘で歩き、多分こっちであってはいる……少々不安ながら出口へと向かう。
(飛鳥さん、こっちでいい、よな……)
心の中で問いかけ、歩き続け――なんとか外に出ることができた。
時刻は小一時間もすれば外が暗い時間帯になる。太陽は西に傾いていて、西日がビルのガラス窓に反射し、あちこちがまぶしく光っている。
(ここであっているハズ、自分が出たかった場所……うん、見覚えある。そうだ、あとはタクシーを拾えばいいんだ)
タクシーに乗り、多分見たことがある景色を見ながら、さらに目的の場所へ向かう。
そこはこんな都会の住宅街の中にあるという年月を経た遊園地。一度だけ飛鳥と訪れた場所だ。飛鳥との出張で付き合った翌日に休暇として二人で訪れた、ある意味、思い出の場所。
先ほど電話で隼人から『兄貴が昨日から出かけて帰ってきてない』ということを聞いた。外泊しているから心配はするな、という情報はあったそうだが。
『大翔さん、どこか心当たりない?』
そう言われても心当たりなんかあるわけない。この遊園地をこうして訪れたのも自分が、ここしか飛鳥との思い出がないから、というだけなのだ。
飛鳥がここに来ているという確証はない。それでもここに来てしまった。探してみるしかない。
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