第106話 陽向とトキとミチル(1)
実菜穂は地べたにペタリと座り込んでいた。何かあったような。無かったような。とてつもない光景が光の奥に渦巻いているのだが、それを思い出そうにも、いっこうに映像にたどり着けないでいる。
とりあえず、思い出すことを中断して陽向と真奈美を探した。
ちょうど二人も目を覚ましたところだった。
「私たちどうしたのかな。たしか
実菜穂が陽向の姿を見て口をアングリと開けて目をパチクリさせた。
「陽向ちゃん、服がもとに戻ってる。傷も消えてるよ」
実菜穂の指摘に真奈美も驚いて陽向を見ている。陽向は自分の手足をまじまじと眺めていた。
「本当だ。傷跡が全然ない。痛みも消えている。不思議。私も意識が薄れてから記憶がないよ。真奈美さんはどうですか?」
真奈美は首を横に振りながらも、頭の片隅にある小さな箱を開けるかのように記憶を呼び起こしていた。
「私は、夢かどうか分からないけど。光を見たような。赤と青の光がパーッと別れていくの。赤色の光にはもう一つ赤い光が、青い光には桃色の光が絡まっていた。そして、消えたの。それから。赤と青の光はまた一つになった……ごめんなさい。自分でも何言っているのか分からない。不思議な夢を見たのかな」
真奈美は自分で言ったことが整理できずに、恥ずかしそうに申し訳ないという顔をした。
「あー、何だかそれ分かる気がする。頭の奥に私も何かあるのだけど、出てこないよ。もしかして、夜更かしのせいで寝ちゃったかな?そのせいかな?気持ちも身体も軽くなっている感じ。快適なんだけど」
実菜穂が肩や足を揉みながら確認している。
「三人とも一斉に寝たの?陽向さん、実菜穂ちゃんも同じところで記憶がないということは、そう考えるのが自然なのかな。たしかに私も気分が楽になった」
「私も身体が楽になってる。実菜穂ちゃんの言うとおりかも。それと、随身門の先が見えるようになりました。ここを通ることを許されたようです」
陽向の言葉に真奈美が頷いた。その顔は幾分、緊張が増してはいたが、それと同じくらい期待も増していたように明るくなっている。
「先を急ぎましょう」
陽向の声に、実菜穂と真奈美は立ち上がり随身門を通り抜けた。その瞬間、三人の耳には声が聞こえてきた。
「守るべきものを守る」
その声の主が何者か、何を示しているのかは分からなかった。ただ、その言葉に頷いていたのは確かだった。
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