第100話 赤珊瑚と桃珊瑚の見た思い(18)

 周りに無数の太刀を従え、巨大な太刀に乗る桃瑚売命と群青色に輝く龍神を従えたみなもが向かい合っている。


(龍神よ。すまぬが、少し付き合ってもらうぞ。儂の覚悟を見せねば、桃瑚売命は退くまい。実菜穂、お主は儂が護る。もう少し辛抱してくれ)


 みなもの瞳は群青色から穏やかに水色に輝きを変えていた。


 その瞳を見つめ、桃瑚売命はみなもという神に思いを巡らせる。


(もし、水面の神が人の身体でなければ、とっくに一撃を受けていたかもしれない。不思議ね。これほどの力を持ちながら、姉を越えようと思わないなんて。分霊の性?ただの木偶?分からないわ水面みなもの神という柱は)


「龍神を迎え撃つ準備はできたわよ。次に向かってきたときは、水面の神、あなたの最後。覚悟してくることね」


 桃瑚売命の言葉が合図であるかのように、龍神は雄叫びを上げ天に上っていくと、遙か上から鋭い眼光を注いだ。


 その光と共に轟音が地面を震わせてる。龍神の雄たけびに地も天も応えているように思えた。 


 巨大な太刀は雄たけびを上げる龍神に狙いを定め、ゆっくりと切っ先の向きを変えていく。龍神を迎え撃つべく編成された艦隊のまさに旗艦とも言うべきその巨大な太刀は、神聖な光を放ち龍神の雄たけびにも動じることはなかった。


 二柱の目と目があう。それを待っていたかのように龍神が上空から桃瑚売命めがけて襲いかかってきた。


「来たわね!」


 太刀が上から迫る龍神を迎え撃つべく、一斉に陣形を変え、次々に飛び去っていく。


 太刀が龍神めがけて蜂のように飛んでいく。龍神も太刀の群に怯むことなく突っ込んでいく。太刀が弾かれていくのと同時に龍神も僅かながら傷を受けていった。傷を受けながらも、龍神の勢いが弱まることはなかった。むしろ激しく光り輝き、突っ込んでいった。ただ一点を目指して。


(龍神も分かったか。真っすぐ私に突っ込んでくるつもりね。そうでしょう)


 桃瑚売命がフッと笑う。


「小さな太刀だと侮らないことね。ただの太刀ではないわよ。その一太刀、一太刀が従神の御霊を砕いて……!!!!!!!」


 桃瑚売命が声を上げ、勝機を得たとばかりに、みなもを迎え撃つべく構えたそのとき、みなもの瞳が再び群青色に輝いた。その輝きを受けた桃瑚売命の瞳は、予想もしないものを捉えた。


(なによ。これは、ありえない!)


 桃瑚売命は全ての太刀を地面に戻すと、見事と言う他ないほどに素早く巨大な円柱の珊瑚を何本も出現させ、自分をぐるりと取り囲んだ。その光景は異常なほど堅固に桃瑚売命を守るように次々と地面から突き上がっていった。

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