第96話 赤珊瑚と桃珊瑚の見た思い(14)

 桃瑚売命とこのみことが素早く流れる動きで、みなもとの間合いを詰める。その見事な動きは、かわすことなどできず、ただ身を引いて防ぐのが精一杯だった。


 今度は腹部に攻撃を受けた。うまく身を引いてはいたが、それでも防具はひび割れた。間違いなく肋骨と内蔵はやられた。

 光を帯びた手をかざし、すぐさま回復をすると宙を飛び桃瑚売命との間合いをひろげる。詰められたら、同じ距離だけさがっていく。


「逃げるだけではどうにもならないよ。いつまでそうするの?姉に追いつけないのと同じで逃げ回る?だが!」


 桃瑚売命は正面を避け、みなもの死角にまわり間合いを詰めた。再びみなもの目の前にその姿を現す。みなもは、不意をつかれたという表情の後、水壁を築いて防御をした。


「そんなもの!」


 桃瑚売命は足を蹴り出し水壁を切ると、みなもにそのまま連続での蹴りを仕掛けた。みなもは、蹴りを腕でまともに受け止めると弾き飛ばされていった。


水波野菜乃女神みずはのなのめかみの木偶にすぎないお前が、これから先に進めるとは思わないでね。舐めないで。水面みなもの神」


 蹴りを受け、飛ばされていくみなもを睨み、叫んだ。 


「やれやれ、歯が立たぬか。さすがに門守の神じゃな」


 みなもがそう呟き正面を見た矢先に、桃瑚売命は間合いを詰め、みなもを蹴り飛ばした。みなもは、再び飛ばされ、鞠のように地面に叩きつけられて転がっていく。痛みが全身を襲う。手足の自由が利かなくなり、息も荒くなる。身体が血の色に染まる。


(すまぬな、実菜穂。これが人の身体。人の痛み。人の苦しみ。それを感じることができたこと感謝しておる。おかげで、ようやくじゃが桃瑚売命の姿が見えてきたぞ)


 みなもは、荒い息で笑みを浮かべる。


「なにがおもしろいの?傷を癒しても、また痛めつけられるのにね。止めをした方がいいのかな」


 桃瑚売命がクスリと笑う。


「止めをさせられては、実菜穂に申し訳がたたぬのでな。そこは笑えぬぞ。ただな、ようやくお主の姿が見えてきての、それが可笑しくなった」

「私の姿?私の動きが見えるということ?」

「儂に動きを見切られるほど、お主は未熟では無かろう。儂が見えたのは、なーんも見えとらんお主じゃ。見えていないのは、真奈美と同じじゃがな。まだ、自分の思いに正面から向き合っておるだけ大したものじゃ。それに引き替え、己の心も見えていないお主が神であることが嘆かわしいわ。姉の心、妹知らずとはこのことじゃな。まっ、そのあたりは儂も同じじゃが」

「何が言いたいの?」

「分からぬか?なら、いま話しても分かるまい」


 みなもは、全身に清流を纏うと身体が傷一つない状態に戻った。さらに防具も以前より美しい水色の光を放ち、きれいに修復されていた。


「すまぬが、これ以上この身体を痛めつけられるわけにはいかぬのでな」

「何度傷を癒そうと同じことよ。その、物言いがずっと気に入らないの。今度こそ止めをしてあげる」

「なら、少しは抵抗するまでじゃ」


 みなもは再び宙に舞い、指を高々と突き上げると周りを霧で覆い尽くしていった。みなもの姿が影となり消えていった。

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