第83話 赤珊瑚と桃珊瑚の見た思い(1)

「この感じ。ユウナミの神は私たちを見ています」


 陽向が本殿に目を向けている。真奈美は同じように本殿を見ていたが、驚いて陽向に顔を向けた。


 陽向は真奈美の意外だという顔に頷いた。


「この鳥居に足を踏み入れるまで、ユウナミの神がここに居るのか分かりませんでした。でも、ここの空気は何か違います」

 

 真奈美は陽向に言われ、改めて周りを見渡した。奥にある随身門ずいじんもんと周りの景色。暑く騒がしいはずの世界なのに、この場では何か違う空気を感じた。それは実菜穂も同じである。いや、ひょっとすると、実菜穂が一番にそのことを感じていたのかもしれない。


 実菜穂にとって、今の経験は初めてではない。水波野菜乃女神、アサナミの社で神のもつ雰囲気、息吹とでも言うのかその神が存在する証を感じた経験がある。


(たしかにこの場は熱くそれでいて安らぐ感じを受ける。アサナミの神とは違う安らぎ。何だろう……そうかこれは、「大切なものが目の前にある」そんな感じだ。でも、ユウナミの神とは違う空気があるのはなぜ。それがあの厚い壁なの?)


「陽向ちゃん、確かに感じる。強い熱情。アサナミの神とは違う。同じじゃない。でも、なんだろう。熱いのに安らげる空気。これがユウナミの神」


 実菜穂の言葉に陽向は頷く。真奈美は目を閉じて心静かに周りの空気を感じようとした。


「分かる。この空気、そう、陽向さんと実菜穂ちゃんの言葉のとおりだ。これは……コノハと同じ」


 目を開いて、参道を見た。そこには今まで見えていなかった赤と桃色の線が参道の両端に延びて随身門へと続いていた。


「陽向さん、実菜穂ちゃん。これは?」


 真奈美が参道に現れた二本の線を指さした。当然、実菜穂にも陽向にも見えている。赤色と桃色のまっすぐに延びていく線。



「この線て、さっきまであったのかな?」


 真奈美が随身門へと続く二本の線を見つめる。


「無かったはず。それは確かだよ。ねえ、陽向ちゃん。私、さっきから気になっているのだけど。ユウナミの神の他に、凄く強い気配を感じるの。これって、もしかして」


 実菜穂はそう言いながら随身門の方に顔を向けた。陽向にはそれが何であるか分かっていた。


「実菜穂ちゃん。そのとおりだよ。これは……」


 陽向がゆっくりと顔を実菜穂に向けた。

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