第64話 ユウナミの思い(5)

 真一は生で実菜穂を見たことに感動して、子供のようにはしゃぎ興奮している。


「すごい!まさかうちの店に来てくれるなんて。そうだ!」

 

 慌てて奥に引っ込むと、一眼レフカメラを手にして出てきた。


「お願い。写真1枚撮らせて。三人でその席にるところ。記念にしたいから」


 真一は手を合わせながらお願いした。


 真奈美は「自分はモデルにたえられない」と飛び退こうとしたが、「ぜひ三人」でと真一は引き留めた。


「陽向ちゃん、お願い。ギョウザと唐揚げをご馳走するから」

「あー、ここのギョウザと唐揚げはお勧めなのよね。あとは……」

「分かりました。塩アイスも提供します」


 陽向の催促に真一が無条件で乗っかっていく。


「真奈美さん一緒にいいですか?」


 陽向の誘いに真奈美は申し訳ないという顔で了解した。


 真一はカメラを構えると、次々に写真を撮っていく。


 三人でお喋りしているところや店の前に並んだところ。店員姿にもなった。さながら撮影会の様相である。撮影に夢中の真一に代わり、観光で来たお客に三人で応対する場面もあった。もちろん、絶好のシャッターチャンスとばかり真一は一人一人の姿をカメラに収めていく。最後には親父さんまでも笑顔で三人のなかに入ってきた。楽しいひと時が過ぎていった。撮影が終わると、真一が色紙を持ってきてサインをねだった。


「私、サインなんてできないよ」

 

 実菜穂はペンを持ったまま固まった。


「普通に名前を書くだけでいいから。このとおり、お願い」

 

 真一が再び手を合わせる。


 真一の子供のように喜んでいる顔と本気度の高いお願いする姿に、実菜穂はペンを動かした。 

 実菜穂と陽向が丸みのある柔らかい文字に対して、真奈美はメリハリのある綺麗な文字で名前を書いた。


「何だか本当にアイドルになったみたいだね」

 

 三人の名前が書かれた色紙を実菜穂が手渡した。


「いやあ。アイドルなんだよ。この店に来るお客からしたら芸能アイドル以上の存在だよ。陽向派と実菜穂派のグループもできているんだから」


 真一は得意げに言っていたが、三人は口を開け唖然としていた。


(あちゃーっ。良樹なら絶対、陽向ちゃん派で仕切ってるな)


 美菜穂は大きく写る陽向の写真を見ながら1人で笑っていた。 

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