第41話 人を出迎える神(10)
実菜穂たちが息を弾ませ走っていると急に周りが明るくなり、あたり一面を見渡せるようになった。そこには、小道が前に続いており、春の草華や木々が生命の息吹を見せている。春の野原が目の前に広がり、青々しい香りと甘い香りがあたりを包み込んでいた。
野原の中には女が立いた。淡い桃色の着物に白い羽衣が美しくなびいている。
「イワコちゃん。あそこ見えているのは神様だよね」
実菜穂は背中にいるイワコに聞いた。イワコは、足をバタバタさせて実菜穂に下ろすように頼んだ。コノハは、真奈美の背中にベッタリくっついたままだ。
「あそこにいるのは、
イワコはそう言いながら、佐保里姫に近づいていった。佐保里姫は、イワコ達に気がつくと、手招きをして迎えた。実菜穂と真奈美は、招かれるままに佐保里姫の側にへと近づいて行った。春の神らしいく、どこか暖かみを感じて、フワフワとした雰囲気に実菜穂の心はくすぐられていた。
「邪鬼は退きました。暗闇であったのは、あそこで邪鬼を足止めするためです。暖かくみなを迎えようとしましたが、先客がいて驚かせてしまいました」
佐保里姫はフワッとした笑みで実菜穂達を見た。
「じゃあ、陽向ちゃんが邪鬼を」
「いいえ。陽向は、そのままこちらに駆けてきています。じきに見えるでしょう。邪鬼を葬ったのは死神です。私がここを動くことができませんので、ついでにお願いしちゃいました」
佐保里姫の言葉に実菜穂と真奈美は驚いて顔を見合わせた。
「死神がここに来ていたのですか?陽向ちゃんは死神に会ったのですか?」
実菜穂は、意外な登場神に少なからず動揺した。
「陽向が見たのは、神の姿ではない死神です。死神から振り返らずにこちらに来るよう契りを結びました。陽向はそれを守りました。もし、契りを違えていれば、ただでは済まなかったでしょう。死神を見た人は、御霊を刈られますから」
佐保里姫は『ほら、そこに』という表情をすると実菜穂達が来た道を指さした。振り向くと、誰かが駆けてくるのが見える。陽向だ。実菜穂と真奈美は、手を振りながら陽向を呼んだ。
「陽向ちゃん、大丈夫だった?」
実菜穂は心配顔で、陽向の手を握ると、真奈美も顔をのぞき込んで心配した。
「私は何ともないよ。走っている途中で急に明るくなったから、驚いちゃった。道が見えたということは、邪鬼がいなくなったのかな。女の子が、邪鬼の相手をすると言って私を逃がしてくれたの」
陽向は、心配顔の真奈美に大丈夫のアピールを加えて答えた。
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