第39話 人を出迎える神(8)
(見える。邪鬼の群。やはり百は越えている。なに?この数、それにこの険悪な空気)
陽向が意を決し託された物を取り出そうとしたとき、背後から呼びかける者がいた。
「いまここでその
陽向は意表をつかれて掛けられた声に振り向いた。そこには自分と同じくらいの年齢の女の子が立っており、陽向が胸に当てていた手を取るとそっと離した。袴姿で髪を一つに束ねた女の子。細い指先が美しく見えるのが何よりも印象に残った。
(この子、神様だ)
陽向は、神の眼から見える女の子の姿からそのことはすぐに分かった。
「あなたは?」
陽向の問いに女の子は、表情一つ変えずスッと隣にきた。人の動きではない。
「私の詮索はいましても意味はない。それよりも先に行った人たちを追った方がいい」
女の子は、陽向の瞳をのぞき込み静かに頭の中に響く声で語りかけると、陽向は、深紅の瞳で女の子の瞳を見つめ返した。
「いい瞳の色だ。さすが日御乃光乃神の社の巫女。この邪鬼は、なぜか先に入り込んでいたものが半分。さっき、人が通るときに紛れ込んで入ったのが半分。そのようなところだろう。この
「あなたは剣のことをなぜ知っている?それにユウナミの神のことまで……」
「詰まらぬ詮索はしないこと。この場は、私が片づける。あなたはそのまま先に行った人を追えばよい。ただし、けして振り返らぬこと。古来、この手の契りを破り、不幸な結末を招いた者が多くいる。よもや、あなたはそのような愚かなことはしないでしょう」
女の子はそう言うと、陽向に期待する目を向け微笑んだ。陽向は、その瞳の奥に深い闇と光を感じるのと同時に、女の子の言うことに分があることを理解した。陽向が、女の子に背を向けると深紅に輝く目を見開く。
「行きます」
陽向は一言告げ、そのまま振り向かずに春の道を駆けて行った。
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