第34話 人を出迎える神(3)
三人は小さな駅に着いた。小さいとはいえ、有人駅なのでそれなりに人もチラホラといる。実菜穂は列車を降りて、ムッとする熱気を感じていた。
「うわっ、今日は暑いね。さすが夏って感じ。蝉が元気だわ」
実菜穂は、まぶしさに思わず手を掲げて日差しを防いで見上げた。
「こりゃあ、たまらんね」
陽向は笑って日陰に避難した。
「それにしても出迎えの神様ってどうやって見つけるのだろう。まさか、【雪神様ツアー御一行】なんて札なんか掲げてないだろうなあ」
「そうね。それだと有り難いんだけどな」
実菜穂は冗談で言ってみたが、真奈美は意外にも真面目に受けて答える。
「とりあず、ちょっと休んで考えようよ。実菜穂ちゃん、あれあれ」
陽向はそう言いながら、売店の看板を指さしていた。
《地元天然水で作ったアイスキャンディー》
涼しげな文字で書かれた看板に陽向は目を輝かせていた。
「おおっ、この暑さになんだか惹かれるね」
「でしょう。こういう地元物って、けっこう好きなんだよね」
実菜穂の乗り気の返事に、陽向は喜んで真奈美の手を引くと売店に向かった。クーラーボックスの中には、梅、甘酒、ミルク、チョコ、アズキ、ソーダー、甘夏、イチゴなどカラフルにアイスキャンディーが並べられていた。実菜穂は目移りしそうな、色とりどりの中から「これじゃ」とばかりさっと選んだ。
「私は断然、梅だな。最初からこれに決めてた」
実菜穂はそう言いながらニカリと笑った。
「なんか実菜穂ちゃんらしい……私は、なんといっても甘酒」
「えっ、陽向ちゃん意外だあ。てっきり、チョコ選ぶと思ってた」
実菜穂は、陽向の新たな一面を見たとばかりに驚いた。
「真奈美さんは、アズキかな」
実菜穂と陽向は同じ予想をしたが、真奈美はミルク味のキャンディーを手にしていた。二人はこれまた驚いた目で真奈美を見ると、真奈美は「えっ、可笑しい?」という表情をしたので、二人は笑って首を振った。
実菜穂たちは駅の出口にあるベンチでアイスキャンディーを頬張っている。冷たく爽やかな梅の香りが実菜穂の口の中いっぱいに広がった。
「うーん、このサッパリ感が暑さを和らげてくれる」
実菜穂は、青空を見上げて口の中の清涼感を楽しんだ。
「外にでてこんなふうにみんなでアイス食べてると、夏休みって感じがするね。小さい頃に戻った感じ」
「分かる分かる。そうだねえ。私なんかよくみなもと川辺でいろいろ食べたなあ。あのときは楽しかったなあ」
日向と実菜穂が真奈美を挟んで話しているなか、真奈美はアイスを一口かじりながら琴美と過ごした夏休みを思い出していた。
(琴美ならきっとイチゴを選ぶだろうな)
真奈美はそう思いながら笑っていた。
「出迎えの神様が分からないなあ。ちょっと、駅を一回りしてくるね」
実菜穂はアイスを持ったまま立ち上がった。
「そうね。私は反対方向を回ってくる。真奈美さんは、ここで待っててください。何か感じることがあれば電話してくださいね」
陽向はそう言いながら、実菜穂と反対方向に行った。真奈美は頷いて、ベンチに座ったままアイスを咥えて空を眺めた。小さな白い雲が流れていく。たまに日陰になり、眩しさが和らいだ。ふと、駅のそばに石垣があるのに気づいた。何気にそばに寄っていくと、コンクリートの地面と石垣の間にわずかな地面が見えており、そこにはシロツメクサが健気に可愛らしく華を咲かせていた。
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