第28話 絶望をしたときに期待されているもの(9)

 みなもは真奈美の覚悟の思いを確認した。


『その覚悟、信じよう。真奈美よ、ユウナミの神のもとにこのまま行っても何も起こりはせぬぞ。ユウナミは太古の神じゃ。そう易々とは人の前に現れはせぬ。ましてや人が御霊について語る言葉など簡単には耳を傾けぬ。その神が持つ役目に関わることであればなおさらじゃ。じゃが、目の前に姿を現したのなら別じゃ。話を聞くであろう。ユウナミがその心を動かされれば、琴美の御霊を返してくれよう。ただ、門を閉じるまでに間に合えばじゃがな』


(門はいつ閉じられるの)


 陽向が聞いた。


『月の神がともす明かりが半月となるとき。陰と陽が互いに時を分かち合う日じゃ。ちょうど、祭りの日じゃの」


(ちょっと、待って。今日が23日だからあと8日しかないじゃない。しかも補講はあと2日あるから、6日しかないよ)


 実菜穂が慌てて高らかに声を枯らせる。実菜穂の慌てぶりと対称にみなもは落ち着いて答えた。


『なにも慌てることはあるまい。ユウナミの神の社には1日もあれば行けろう。まあ、ちと寄り道をせねばなるまいが。それでも3日もあれば十分じゃ。楽しい旅になるじゃろう』


 みなもは楽しげに言うが、実菜穂はまだ心慌ただしく、あれこれ考えていた。その様子は肝心の真奈美より動揺しており、傍目からは可笑しく見えた。


(みなも、私たちがユウナミの神と会うにはどうすればいいの?)


 実菜穂を落ち着けようとして陽向が聞いた。


『ユナミの神が是が非でも、姿を現さねばならぬようにする必要がある』

(そんなこと私たちだけでできるの?)


 陽向の前向きな質問にやっと落ち着きを取り戻して実菜穂が聞いた。


『できる。というか、それを持っていればユウナミが姿を現さざるえない物がある。それが雪神が作る札じゃ。これを持って行けば、必ずお主たちの前に姿を現す。これは、ユウナミの神だけではなくアサナミの神も同じなのじゃがな。まあ、理由はちと複雑なのでここでは説明せぬ。とにかく、雪神から札を授かるのじゃ。案ずることはない。既に雪神は札を用意してお主たちに会うことを楽しみにして待っておる。寄り道をするとはそのことじゃ。ああ、そうじゃ、雪神についてじゃが、今回は心配ないが会うときは男の人は連れていくでないぞ』


 そう言うとみなもはクスクス笑った。


(えっ、なぜ?)

(雪神様が男の人を捕っちゃうから?)


 実菜穂と陽向がすかさず聞いた。真奈美は呆然と会話を聞いている。


『まあ、ちと違うの。逆じゃ。たいてい男の人は雪神に惚れるでな。雪神にはその気が無くとも、「何もしなくて良いから」と男の人は側に置きたがる。雪神はそんな感じの神じゃ。儂が大好きな神じゃ。お主たちも会えば分かる。それにな、雪神の周りにはいろんな神も集っておる。機会があれば会ってみるのも面白かろう』

(でも、雪神様のところにはどうやっていけばいいの。たどり着けるのかな)


 実菜穂は、不思議がっていた。


『それも案ずることはない。道案内の神が駅まで出迎えにくると言うから会うことも容易じゃろう。お主らがうまく出会えればじゃがな。なかにはイタズラ好きの神もいるからのう』


 みなもは、そう言いながら笑っていた。


(みなも、笑いすぎだよ。真奈美さん不安になってるよ)


 実菜穂が、突っ込むとみなもは謝った。


『すまぬな。つい、お主たちの慌てようを想像してな。真奈美よ、お主もこの機会にじかに神というものを見て、触れておくと良い。お主の中で何かが変わるであろう。なにより、実際に琴美自身が触れておる世界であるからのう』

(みなも…………)


 実菜穂と陽向は、みなもの真意を感じて真奈美を見た。真奈美は、心の整理がつかないまでも、実菜穂と陽向にうなずいて見せた。


『明日、お主たちは、東門仙のところに顔を出して挨拶をしておいてくれ。それと、実菜穂は今から秋人とここにくるように』

(秋人と?東門仙様のところはともかく、なんで?)

『お主はあほうか。これから祭りまでの間うち2、3日は陽向、真奈美と一緒にここを離れるのだぞ。勘のいい秋人が何も考えずにおると思とるのか。いらぬ心配をかけて事を面倒にするくらいなら、事情を説明しておいたほうがよい。それに、秋人にも動いてもらわねばな。その方がいろいろと都合が良いでな』

(そうだよね。秋人に心配かけると悪いもんね。真奈美さんと同じように勘が良くて、行動力もあるからなあ)


 そう言うと実菜穂は秋人と姿を重ね合わせて真奈美を見た。真奈美は目をそらし、陽向の方を見て顔を赤らめていた。

 三人は明日、改めて詳しい計画を立てることにして別れると、真奈美は琴美の所へと足を運んだ。

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