第9話 年上の妹(3)
放課後、実菜穂と陽向はみなもに真奈美のことについて話をすると、二柱とも真奈美のことはお見通しであった。
「気にすることはない。火の神と儂も真奈美を見てみた。真奈美はお主等に悪意もなく害はないでの……」
みなもは、二人に真奈美について語り始めた。
「あの者は、陽向と実菜穂の間で自己を保っておるのじゃ。真奈美には、妹がおったようじゃ。父母は別れたようでの、そのとき、父が妹、母が真奈美を引き取った。ただな、真奈美は二歳の頃に妹が生まれてな、それ以来、長女として厳しく育てられたようじゃ。物心ついたときには、妹の世話を任せられていての、そのうえ、学問に稽古事、妹より先に励み、己が時間と労力を掛けて習得したものを妹が詰まることなく優しく教えるよう父母から強いられていての。妹中心の環境じゃったようじゃの。妹はそのような環境じゃからすぐに学問も稽古事も姉を越えていった。まあ、妹の世話で自分の時間がないからそうなるであろうな。それも六年前には、離れ離れになった。それ以来は、会うこともなかったようじゃ」
みなもは、一息ついて陽向と実菜穂を見つめると、憂いげな表情で言葉を続けた。
「じゃがな、幼きときの習慣はそうたやすく抜けるものではない。緊張が続いた経験が、今になってなぜか心を不安定にさせたのじゃろうな。妹の面倒を見ておった頃は、おそらく自分も甘えたかったじゃろう。父母を取られた気分だったろう。おまけに甘えられることはあっても自分が甘える場が無く辛かったのじゃ。その反動が陽向、お主にきておる。陽向自身、真奈美が描いておった姉なのであろうな。儂も姉さがおり妹じゃ。尊敬と憧れがあっての、真似をしたくなる気持ちは分かるでな。ただ、陽向はどうかのう、重く感じるか」
みなもの言葉に陽向は、首を振った。
「そうでもないかな。ただ、私の方が年下だから戸惑っちゃって」
「そうだよねえ。でも、陽向ちゃんなら分かるなあ。やっぱり、お姉さんて感じするもんね。クラスでもまとめ役だし。あっ、そうだ。みなも、私はどうなの?真奈美さんは、私をどう見ているの?」
実菜穂は、陽向を見ながら不思議がって聞いた。
「お主はな。妹として見ておるのじゃ」
「妹?どうして?甘えたいから陽向ちゃんをお姉さんだと思うのは何となく分かるけど……」
実菜穂は、混乱しかけている頭を何とか整理しようと考え込んだ。みなもは、そんな実菜穂をみ見ながら、柔らかく優しい笑みを浮かべて答えた。
「真奈美はな、姉としての責任を背負っておるのじゃ。離れ離れになって、一人になったことにより、重荷が降りたと同時に心に空白もできた。姉としての責任というか勤めかのう。捨て去ることが出来なかったんじゃ。陽向に甘える反面、自分が姉として勤めを果たしたい。その思いが実菜穂に向いたんじゃ。前にも申したが、お主にはそういう所で人を引きつける力があるんじゃ。水のようにかたちを変えてな。真奈美にとっては二人の間にいるのがちょうど良いのじゃ。まあ、そうは長く続かんから、今しばらく面倒みてやってくれ」
みなもは陽向に目を向けると、陽向は少し頬を熱くした。
「なんかもう訳分からんねえ。褒められているのかどうか分かんないや。でも、私はまだいいけど、陽向ちゃんはやっぱり大変じゃない?」
実菜穂は陽向を心配して言うと、陽向は照れて笑った。
「そうだね。でも、真奈美さんを抱きしめたときって、すごく安らいでいるのが伝わってくるよ。でもね、実菜穂ちゃんを真奈美さんがお世話しているときの目って、お姉さんの目だった。なんだか守ろうとしていて頼りになる雰囲気。きっと、妹さんもそう感じていたんだなと思う。だから、真奈美さんがそれで気が休まるのならそう重くは感じてないよ。まあ、私はその分、実菜穂ちゃんに甘えるからいいもん」
そう言うと、陽向は実菜穂に抱きついて膝枕をしてもらっていた。実菜穂が笑いながら陽向の頭を撫でているのを見て、みなもは火の神に耳打ちをした。
「陽向はあんな性格なんじゃのう。お主、知っておったか?」
火の神は初めて見る陽向の甘える姿に、驚いた目をして首を振った。
二柱はそんな二人の姿を笑顔のまましばらく見つめていたが、その場を離れると顔を合わせて確認するように囁いた。
「来たな。小さき闇が」
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