第3話 葵と御法 その1
こうして御法の話すようになったのも、実をいうとまだ最近なんだよな。
新人だった彼女もようやく1人で仕事を任されるようになり、うちのホールにもよく1人で来るようになった。
「斎庭さんって、色っぽいですよね!」
…業務的な会話をしていた最中に突然こんなことを言ってくるもんだから、印象に残らないわけがなかった。しかもこれが初対面。
そもそも彼女が俺に興味を示すなんて思ってもみなかったことだから、余計嬉しいような、なんか照れ臭かった。
葬家の確認とお参りが済んだので、御法に『もう帰って大丈夫、また明日』とメッセージを入れた。
「斎庭さんって、百合野ちゃんが来た日はなんか嬉しいそうですよね」
「そんなことねぇよ。」
「俺にはわかりますよ〜。男の勘ってやつ?男には男の下心はミエミエですよ〜。
百合野ちゃんとエレベーターでふたりきりになってドキドキみたいな展開でもあったんですか。」
「だからねぇよ。俺は職場の女性をそういう目で見たりしない。お前と一緒にするな。」
「絶対見てると思うけどなぁ〜。」
申し遅れたが、
コイツは、賢木 佳佑(さかき けいすけ)
9月3日生まれ、29歳、酉年、独身、
埼玉県在住、女好きのチャラ男だ。
だから嫌いだ。
俺と同じ葬祭部で、直属の後輩にあたる。
ときどきこうして2人でホール番したり搬送に行ったりしなくてはいけなくて憂鬱。
ミーハーで噂好きで、厄介な奴だ。
「今なら俺しかいないから、俺絶対秘密にしますから。ぶっちゃけ百合野ちゃんのことどう思ってるんですか?」
「だから、なんとも思ってない。何度も言わせるな。」
「じゃ、俺が狙っちゃおー。」
「おい、勤務中だぞ。口を慎め。そして職場の女性をいつもそういう目で見るのはどうかと思うぞ。」
「ほらー、そうやって遠回しに俺の女に手ェ出すな感出してくるー!絶対好きなくせに。ねぇ、どこまでいってるんですか?
あ、そっか!斎庭さんも百合野ちゃんも奥手だからどっちからも告白しないから、ずっと進展できずにいるんだった!」
「………(明日はてめぇの葬式にしてやろうか)」
「……とうとう相手にしてくれなくなった。黙っちゃった。
斎庭さん、ごめんなさいって!怒らないでんなコワイ顔しないで!」
葬儀屋(そん)な貴方に首っ丈! 裏天使 @ura104
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