2-1 神宮寺マヤは付き纏う

 神宮寺さんの(ふざけた)告白から数日。

 この数日、神宮寺さんはわたしに猛烈なアプローチをかきてきた。

 下校するときは。

「一緒に帰りましょう」

 昼休みになれば。

「一緒に食事しましょう」

 授業中は。

「一緒に授業を受けましょう」

 いやそれは普通か。

 とにかくべったりで鬱陶しいことこの上ない。さらにはいつの間にかわたしの自宅まで特定されていて、毎朝レトロチックな高級車で迎えに来る始末。

 そして顔を合わせるたびに「愛してるわ」。

 全部わたしは無視するが、神宮寺さんはあきらめというものを知らない。




 そして今日も。

 放課後、正門前。わたしは聞きなれた悪魔のクラクションを聞いた。当然わたしはそれを無視するのだが――。


「ちょっと、つれないんじゃなくて?」


 神宮寺さんは車のドアに肘をかけて言う。もちろん運転席に座っていて、他に人は誰も乗っていない。


「愛しの美智香さん、家まで送ってあげるわ」

「何度も言ってるけどお断りします」

「遠慮しなくていいのよ?」

「だって、車って……」

「このエクスキャリバー社製SSロードスターがどうかしたかしら?」

「どこの車かはどうでもいいよ! わたしが言いたいのは免許! 神宮寺さん、無免許運転じゃないの?」


 それを聞いて神宮寺さんはいつもの高笑いをした。


「オーッホッホッホッ! 馬鹿ね美智香さん。免許ならちゃんと持っていてよ」


 神宮寺さんはポケットから免許証を取り出し、ひらひら見せる。だが本物だろうか。


「でも神宮寺さんはわたしと同じ16歳じゃ?」


 すると神宮寺さんは不敵に笑う。


「確かに、日本では普通免許は18歳から。そしてその発行は各都道府県の公安委員会のみが行っているわ。しかしどうかしら? ――もしも、公安委員会に私の部下が紛れ込んでいたとしたら?」

「ただの不正じゃん!」

「大丈夫、試験はちゃんと受かってるから」


 仮に事実だろうと不正を行って手に入れた免許、乗りたくはない。

 そもそも、ちゃんとした免許だったとしても、運転手が神宮寺さんならやっぱり乗りたくない。

 同じ時を過ごしたくない。

 どこに連れて行かれるか分からない。

 下手したら教会に連れて行かれかねない。

 特に今日は用事があるのだ。付き合っている場合ではない。


「何と言おうと乗らないから。特に今日は用事が――」

「下着を買いに行くんでしょう?」

「ど、どうしてそれを!?」

「未来を見たわ」

「能力の使い方それで良いのか!?」


 というか普通に気持ち悪い。プライバシーも何もあったもんじゃない。


「ちょっとあなた、蔑むような眼で見ないで下さる? ……なら、せめてこれを受け取ってくださらない?」


 神宮寺さんは紙袋を取り出した。


「本当はあなたを家まで送った後に渡したかったのだけど、今はお詫びもかねて、ね」


 なんだろうか、ちょっとだけ気になる。お詫び、というのならその気持ちまで無下にすることはない。

 だけど、相手から物を受け取るという行為はどうなんだ。負い目になったりしないだろうか。

 まあ、中身だけ聞いておくか。


「それで、何をくれるつもりだったの?」

「下着よ。買いに行くんだったらプレゼントしようと思って」


 と言って神宮寺さんは、紙袋から下着を取り出し実際にわたしに見せてくる。

 それはつまるところセクシー系というやつで、スケスケでスケスケである。色は青だが、そんなことはどうでもよくなるスケスケ加減。


「初めての時はこれを着けて欲しいわ。正直言って、世間一般で言われてる赤なんかより青の方がエロい――ってちょっと! お待ちなさい! これは私の愛なのよー!?」


 聞かなきゃよかった。私はダッシュで下着屋に向かった。










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