革命の尖兵
「いよいよ決行の日じゃ!!」
帝都の北、シエーナの街にエレオノーラはいた。
「この日を心待ちにしていましたよ」
エレオノーラの隣で嬉しそうに言ったのはアウローラではなくマティルデ・ディ・カノッサという協力者だった。
「女伯の協力があってこそじゃ」
協力者マティルデ・ディ・カノッサはシエーナ辺境伯の地位にある帝国貴族であり、トスカ地域の利権をメディチ家と争っていた。
そこにつけ込んだエレオノーラが、革命が成功した後はメディチ家の利権をマティルデに与えると約束し自陣営に引き込んでいたのだ。
「面映ゆいですね」
眼鏡の奥で目を細めるマティルデは女という身でありながら、帝国貴族内でおいて経済的な影響力の大きいメディチ公爵家と互角に渡り合っていた。
「これから帝国後任の銀行になれるのですから、誠心誠意尽くしましょう」
マティルデは皇帝に向けられるべき臣下の礼をエレオノーラに向けた。
「お互いの得るもののために提供する信頼ほど確かなものは無い。頼むぞ?」
エレオノーラは革命を成すために、マティルデは宿敵メディチ公爵家を潰しさらなる飛躍をするために互いを利用する。
感情的な信頼などという確実性を欠いたものよりよっぽど確かなものだった。
「お任せ下さい」
ヴァロワの地から帰還してからこの二ヶ月、限られた時間の中でエレオノーラは革命の準備をしてきた。
シエーナを目的地とする旅人(アウローラがかき集めた兵士)、商人(人が増え始めたシエーナを商売のチャンスと見た人達)、荷物(革命のための物資)が少しばかり増えたということは話題に登ったが、それに対し懐疑的な目を向けるものはいなかった。
なぜなら――――
「父上、妾はシエーナ辺境伯の力を借りて帝都防衛の戦力を集めようと思うのじゃ」
エレオノーラが自らティベリウスに申し出たことに加えて、最近力をつけてきたシエーナ辺境伯を快く思わない諸侯とティベリウスとがシエーナ辺境伯の財を使うエレオノーラの申し出に許可を下ろしたからだった。
「ふむ、許可しよう。シエーナ辺境伯には申し訳ないが、エレオノーラに協力してやってくれ」
「帝国に尽くすことこそ帝国貴族としての本懐、喜んで協力しましょう」
ティベリウスに対して臣下の礼をとるマティルデは内心ほくそ笑んでいた。
こうしてティベリウスは、エレオノーラとマティルデに革命の機会を与えてしまったのだった。
「それにしても壮観ですね」
エレオノーラの眼前には、シエーナ辺境伯軍千六百、エレオノーラの私兵千二百、アオスタ公爵軍千、イリュリア諸侯の残党千五百あまりが進軍の時を待ち、整然と並んでいた。
「父上もまさかこれほどの軍勢が集まるとは思ってもみないじゃろうな」
笑いが堪えきれないというようにエレオノーラは言った。
アオスタ公爵の兵は、選帝侯会議における公爵の死に伴い、代替わりの最中で忙しく連合軍との戦闘には参加していないといったような幸運がエレオノーラに味方していた。
「では出陣前に一つ、士気高揚のためにも殿下のお言葉を頂戴したいですね」
マティルデはそっと耳打ちした。
「ふむ、そうじゃな」
シエーナの街の広場に集まった兵達を見渡せるよう、謁見のための台に登った。
「陛下のお言葉があります、
マティルデはよく通る声で兵達の耳目をエレオノーラへと集めた。
「この国は今、現皇帝ティベリウスの利権のためにアルフォンス公国、ヴァロワ朝、ウェセックス連合王国との戦闘状態に突入しており危機に瀕しておる!!だがそれは、我らにとって生まれ変わるための好機でもある!!より風通しの良い国作りのために、或いはより強い国とするために、そして平和を手にするために我々は革命の尖兵となるのじゃ!!」
エレオノーラが言葉を区切ったそのタイミングで、大きな旗が立てられた。
「これを見よ!!」
掲げられた旗は双頭の鷲と平和の象徴であるオリーブの花があしらわれたものだった。
「今から我らは新生帝国軍となるのじゃ!!」
エレオノーラが拳を突き上げると兵士たちは雄叫びをあげた。
「「「うおぉぉぉぉぉぉッ!!」」」
シエーナの街に割れんばかりに響く雄叫びは、街そのものを飲み込みんでいき街は歓声に沸いた―――――。
――――――――――――――――――――
†あとがき†
みんさんこの作品は覚えていましたか?
三ヶ月ぶりの更新です。
これからは少しずつ更新していくつもりですのでよろしくお願いしますm(*_ _)m
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