激動大陸
白海海戦
四月を迎えアルプスの冬将軍が退却を始めた頃、ヴァロワと帝国に面する白海には砲声と怒号が響いていた。
「帝国艦隊、ピアーナ島を抜けて追ってきます!」
「このまま追わせておけ」
四十隻のウェセックス艦隊を率いるマウントバッテン海軍提督は、十隻余りの艦艇を率いると帝国領海に侵入してみせたのだった。
これに驚いたのは帝国艦隊の巡視艦隊の方であった。
複縦陣で突っ込んで来たウェセックス艦隊と巡視艦隊は遭遇。
交戦を避けるべく停船の申し渡しをしたのだがそれに対しウェセックス艦隊は砲撃で返答。
巡視艦隊四隻は海の藻屑となった。
帝国艦隊が本腰を入れてくるのを待つべくウェセックス艦隊は翌日以降も同海域に留まることを決定し、周辺の島々の帝国軍関連の施設を攻撃して回った。
自国領海におけるウェセックス艦隊による攻撃と略奪を察知した帝国艦隊は、イリュリア大同盟との戦闘を生き残った残存艦艇十八隻を出撃させるに至り二日後の今日、帝国艦隊はようやくウェセックス艦隊を補足したのだった。
「敵は十隻こちらは十八隻、数で勝る我々が勝てぬ道理などなし!叩き潰してしまえ!」
風は東から来る追い風、逃げるウェセックス艦隊、追いかける帝国艦隊の双方に都合のいい風だった。
後は帆の大きさ、搭乗員の練度、船の軽さなどでの速度勝負ではあったが、練度と重量の優位はウェセックスにあり帝国艦隊は追いつけずにいた。
「このまま進めば、もうそろそろだな?」
マウントバッテン海軍提督は、航海士に針路を尋ねた。
「はい、予測される合流地点です」
ウェセックス艦隊に後から合流してきたヴァロワ艦隊を含む四十二隻の大艦隊が帝国艦隊を待ちわびていたのだ。
「さて、敵はいつ気づくのやら」
マウントバッテンはこれから繰り広げられるであろう光景を想像すると、ほくそ笑んだ。
「しかし、風上を取られてしまっていますよ!?」
航海士は不安そうな表情をうかべる。
するとマウントバッテンは笑った。
「なるほど教本通りならば、風上にいれば攻撃も左右への針路変更も可能だろうよ。だからこそこれでいいのだ。一度動きだした物体は重ければ重いほど、動きを変えるのには時間が必要だろう。重量が重いのは帝国艦艇、風に乗って速度が出ているのも帝国艦艇、すなわち待ち伏せに気づいてからではもう遅いということよ」
巡視艦隊の仇を討つとばかりの猛追を帝国艦隊はみせている。
「ほれ、まもなくショータイムになるだろうよ」
マウントバッテンは視界に展開する連合艦隊を捉えるとニヤリと微笑んだ。
「それに風上を取られちゃいるが、この海域の海流はゆったりと東に流れる海流だ。二枚潮になるほど風が強いわけでもなし、追撃は可能だ」
圧倒的な数と豊富な経験がマウントバッテンに自信をつけさせていた。
「我らが新たな白海の覇者となること、帝国艦隊に見せつけてやれ!」
反転と攻撃を意味する旗がマストに掲げられたのだった。
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