エレオノーラの大望
「父上が敗北した!?」
帝国軍敗北の報はあっという間に国中に知れ渡った。
「ほぼ兵力の同じヴァロワ・アルフォンス連合軍に完膚無きまでに叩き潰されたと帝都ではもっぱらの話題です」
「ある程度は予想しておった結末だが、指揮系統が二つの敵相手に敗北するとは……ヴェルナールが強すぎるのじゃろうか……」
指揮系統の一本化がなされている部隊の方が統率力が高く連携の観点から言えば、指揮系統が複数ある連合軍よりも優れていると言える。
しかし帝国とヴァロワ・アルフォンス連合軍との戦闘においてそれは適用されなかった。
「まぁこちらとしても色々やりやすくて助かるがの」
エレオノーラは鑢で研いだ爪にふっと息を吹きかけた。
「状況を聞かせてたもれ」
腹心の元敏腕内務局長アウローラを用いてエレオノーラは大望のために暗躍していた。
「アオスタ公の懐柔は上手く進んでおります。他にも旧イリュリア大同盟領に蔓延っていた反乱分子共も既に我々の行動に呼応する旨、誓いの文が届いております」
まるでならず者の軍隊じゃ、エレオノーラは胸中でそう呟いた。
「帝国の支配下から解放してやると甘い言葉を囁いてやればすぐにこれだ」
帝国の統治の不出来を嘆きながら、しかしエレオノーラの口元は笑っている。
「本当に独立させる気なのですか?」
アウローラが尋ねるとエレオノーラは頷いた。
「故に恒久的に、とは書いておらぬ」
「つまりは殿下の革命に乗じて兵を挙げさせ疲弊させて後から潰す、と?」
「アオスタ公を除いてはそのようにするつもりだ。今度こそ完全に併呑し勢力圏を伸ばす」
ティベリウスにしてこの娘ありだった。
内に秘めた野望は何処までも黒いもので、それでいて柔軟な思考を併せ持つ。
だがエレオノーラはこれから親であるティベリウスを倒そうというのだから、それがどれだけ大変なことであるか、当の本人はよく理解していた。
だからこそヴァロワ・アルフォンス連合と始まった戦争は絶好の機会だった。
国家の存亡のかかる非常事態こそ、彼女が帝国を刷新するためには必要な出来事だった。
「ことが終われば妾は、座をフィリベルト兄上に明け渡す。さすれば妾はヴェルナールの元へ嫁げるという算段よ」
「皇帝にはならないと?」
「内政は妾の性分ではないからの。それに皇帝になろうものならヴェルナールと婚姻を結べないじゃろう?」
危機的な状況にある国を変える動機は皇室に名を連ねる者としての正義感であり、士官学校時代からの恋でもあった。
「殿下らしいと言えば殿下らしいですね」
アウローラは、鈴の鳴るような声でカラカラと笑った。
「失敗すればどちらも不可能じゃからな、心して取り掛からねばならぬの」
自領に戻ってからエレオノーラは日がな一日中、来るべき革命の算段を練っていた。
だがそれもこれもヴェルナールがヴァロワに遠征した帝国軍を打ち破り、引くに引けない戦争状態になることが前提条件であった。
既に前提条件を達した今、エレオノーラは死をもってでも革命を成し遂げると覚悟を決めていた。
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