合流

 「妾の聞いてた話と違うのじゃ!」


 チラチラと街の様子を窺っては頭を引っ込めるエレオノーラ。

 

 「まぁ……ノエルの言葉を借りれば予想外は付き物、そういう事だ」


 結果から言えば、遅滞戦術は成功しなかった。

 嫌がらせに過ぎないことを看破されてしまったのだ。


 「川を渡ってくる物見に矢を射かけたら、ここは離脱しよう」

 

 ヴェルナールは今いる段丘を破棄することを決定した。


 「むぅ……それしかなさそうじゃのぉ……」


 物見に攻撃を仕掛けるのは、せめてもの嫌がらせだ。


 「さすがに妾とヴェルナールがいたところで六百余の軍勢でここを守り通すのは無理というものじゃ」


 彼我の戦力差は優に一万四千はあるのだ。

 古今東西そんな戦力差を覆した話など二人とも知らなかった。

 ましてやヴェルナール達がいるのは城でもなければ砦でもない。

 ただの丘にすぎないのだ。


 「敵の偵察部隊と思われる騎兵、十五騎来ます!」


 駆け寄ってきた見張りの兵士が押し殺したような声で告げる。


 「噂をすればなんとやら、ということか。エレオノーラ、頼めるな?」

 「わ、わかったのじゃ」


 同朋殺しという汚名を被ることになることを知りつつエレオノーラは頷いた。

 そして自身の連れてきた二百八十の騎士達に告げる。


 「お前達、今から妾の言うことを心して聞け。敵の偵察が来ている。それを射殺した後に此処から退却することと相成った」

 

 エレオノーラの同朋殺しをせよという命令に動じる者はいない。

 アウローラが集めた者達は皆、とっくの昔に覚悟ができていたのだ。


 「「ははっ!」」


 だが彼らは自身が祖国を同じくする者を討つことよりも、エレオノーラが実父ティベリウスや実兄である第一皇子トンマーゾに弓引くことを決意するためにどれだけの覚悟が必要だったのかを思いやった。


 「弓を持つ者は構えよ!」


 百近い弓騎兵が川を渡る騎兵へと狙いを絞る。

 幸いにして今夜は月夜、遮蔽のない川を渡る騎兵の姿はよく見えた。


 「放て!」


 鏃に月光を纏わせながら放たれる百余の矢。

 それらは川中の騎兵を横殴りに射倒した。

 残った騎兵達は、異変に気付きすぐさま引き返そうとするも第二射が彼らを襲った。

 寸刻の間に偵察に来た十五の騎兵は水面へと姿を消すこととなったのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「よし、此処を引き払う」


 戦果十分と判断したヴェルナールは、本隊と合流を果たすべく、馬上の人となった。

 全員が騎兵であるために退却の速度は極めて早い。

 偵察部隊がどこからかもわからぬ攻撃により全滅した帝国軍は、慎重になっていた。

 そんな彼らが、しっぽを巻いて退却するヴェルナール達に追いつけるはずもなかった。

 途中で小休止を挟みつつ迎えた翌朝、オルレアンから東に五十キロ、ロリスの街で本隊との合流を果たした。

 六千弱のは、オルレアンを目前にしてロアール川を挟んで帝国軍と睨み合う格好となるのだった。

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