期待外れ
「ノエル、只今帰還しました」
情勢の変化に応じてヴェルナールがノエルに実行を命令したプランは白紙撤回することになったのだった。
「すまなかったな」
「予想外は付き物、閣下が気にされることはありません」
サン=サンドゥラの北、高度が僅かに高く川に突き出た地点をとりあえずの防衛拠点に定めたヴェルナールは、街道の各所に見張りの兵を置いて帝国軍の出現を待つ構図となっていた。
「それと、敵情報告ですが敵軍の足並みは予想より遅く、ここサン=サンドゥラへの到達は今夕になるという見立てです」
その知らせにどこか張り詰めていたヴェルナールの表情は、幾分和らいだ。
「今朝の奇襲から立て直すのに存外時間がかかったか……。ここで一晩持ちこたえれば、おそらく
目に見えるほどに防衛態勢を整えた、という訳ではなかった。
故に潜伏し続けるという選択肢がヴェルナールの脳裏に浮かぶ。
だが、帝国軍が野営地の周りを偵察しない間抜けなわけはないと考え直した。
「遅滞戦術を取らざるを得ないか……」
「また仕掛けるのですか?」
果たしてそれは可能なことなのだろうかとノエルは小首を傾げる。
「なに、戦うだけが遅滞戦術ではないさ。騎兵部隊を少数の集団に分ける。そしてそれを帝国軍の進路上に走らせる。嫌がらせとしては十分だろう?」
帝国軍からすれば、朝方の奇襲により無視できない損害を出しているのだ。
進路上に敵が見えれば行軍は慎重になるというもの。
行軍の足が鈍れば、サン=サンドゥラへの到着は明日に伸びる可能性が生まれて来るわけだ。
戦力を整えたいヴェルナールにとってそれは最良の結果だ。
「アンドレー、聞いていたな?」
「御意!」
少しでも行き足を遅らせるため騎兵達はすぐさま準備に取り掛かるのだった。
◆❖◇◇❖◆
「正面に騎兵十数騎!」
帝国軍がサンセールの街に入ろうとした時、異変は訪れた。
所属不明の騎兵部隊出現の報はすぐさま部隊を率いるティベリウスの元へと伝わった。
「行軍停止!物見を出せ!」
すぐさま五十騎あまりの騎兵がその声に応えて、隊列から飛び出していく。
すると所属不明の騎兵部隊は蜘蛛の子散らすように北へと退いていった。
最初に彼らが現れたサンセールの街は、帝国軍による念入りな調査が行われたが、しかしその後は所属不明の騎兵部隊を見てもティベリウスは行軍の速度を緩めることはなかった。
そして夕暮れ、帝国軍はロアール川南岸サン=サンドゥラへと到達した――――。
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