先制攻撃

 翌朝、ヴィシーの街を望む丘陵地帯にヴェルナール達はいた。


 「敵がロアール川沿いに針路をとってくれたおかげで色々やりやすいですね」


 アンドレーは眠たい目を擦って言った。


 「全くだな。こちらから探しに行く手間が省けた」


 眼下の街並みには帝国軍の軍旗がはためいている。

 

 「街ごと火にかけたらさぞ面白いだろうよ」

 「セルジュ陛下の許可が降りるので?」

 「降りたら苦労はしない。世迷いごとだ」


 ヴェルナールと言葉を交わすアンドレーは帝国軍の部隊配置を観察しながら紙へと書き起こしていた。


 「さて、しばらくは様子見だ。お前達、いつでも出撃できる状態で休め!」


 甲冑は脱ぐなとヴェルナールは命じた。

 住民が避難し、ありえないほど閑散とした街の各所から上がる煙は朝餉の支度によるものだ。


 「敵が油断している今が好機なのでは?」

 

 アンドレーの問いにヴェルナールは頷く。


 「もちろんそうだ。だが敵は街の中、これでは騎兵を活かして戦えない」

 

 兵種にはそれぞれ得手不得手とする地形がある。

 騎兵は野戦向きの兵種で街をめぐる攻防においては無用の長物となる兵科だった。


 「なるほど、セオリー通りとは行きませんね」


 既に陽は地平線から姿を現しつつあった。

 やがて炊事の煙は止まった。

 

 「そろそろ行軍開始だな」

 

 街の中は行き来する人馬で俄に慌ただしくなった。

 だがヴェルナールが出撃命令を下すことは無い。


 「タイミングはどうするのですか?」

 「そうだな、敵の隊列が伸びきったタイミングを狙う」


 密集隊形では敵に即応されやすい。

 逆に行軍により隊列長く伸びれば伸びるほど敵からすれば対応しずらいのだ。

 

 「お前達、二列縦隊で敵の側面まで進出、その後は横隊突撃に移行する。二列縦隊用意!」


 ヴェルナールの号令に四百の騎兵達が動き出す。

 その迷いのない動きは、さすが戦い慣れている軍隊だった。

 あっという間に縦隊が形成されていく。

 もちろんその先頭に立つのはヴェルナールとアンドレーだった。


 「敵軍、行軍開始しました!」


 アンドレーの報告にヴェルナールは落ち着きを払った声で応じた。

 対外戦争であることで士気が低いのか、街から出る隊列はバラけており既に伸びきっていた。

 数十分の時間を経て最後尾の補給部隊が街を出る。

 その数ざっと千五百、ヴェルナールはニヤリと微笑んだ。


 「その油断が自らを滅ぼす!」


 ヴェルナールは力強く言い放つと槍を突き上げた。

 それに合わせて四百の騎兵達がそれぞれの得物を握りしめる。


 「俺に続け!突撃!」


 ヴェルナールは愛馬タナトスの腹を蹴ったのだった。

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