三者三様
「一旦帰国したんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんじゃがな……帰国してすぐにヴェルナールがヴァロワ入りしたことを受けてカロリング帝国国内においても軍の召集が始まったのじゃ」
「そうだったのか。やはりお前の父親は一筋縄でいく人間じゃないらしいな」
エレオノーラは終始申し訳なさそうな顔をしていた。
「混乱に乗じてヴァロワに侵攻するつもりなのか或いは俺を潰したいのか。はたまたその両方か。どちらにせよ一戦交えることは避けれそうにない」
「ちと待てヴェルナール」
結論づけたヴェルナールにエレオノーラは待ったをかけた。
「どうした?」
「それをどうにかするために妾が来たではないか!」
「具体的に何か案があるのか?俺はまだ浮かんでないぞ?」
エレオノーラは不敵に微笑む。
「それをどうにかするのが妾達の仕事じゃろう?」
反対にヴェルナールは溜め息をついた。
「つまりは無策だと……」
「今の時点でじゃ!この後何か浮かぶかもしれんじゃろ!」
「それもそうか」
貴族内の対立が、国家間の野望が、宗派対立が入り交じる難題、そう簡単に一人で答えを出せるはずもない。
「三人寄れば文殊の知恵、お主と妾とアレクシアがいるのじゃからどうとにでもなるはずじゃ!」
その三人はそれぞれに国がありそれぞれの立場がある。
一つの立場出ないからこそ、より多角的な視点から考えることが出来るのだとエレオノーラは言いたかった。
「もっともエレオノーラの話を断ったら俺は打つ手がない。よろしく頼むぞ?」
「任せるのじゃ」
国家間の戦争回避のため、こうし二人は動き出した。
◆❖◇◇❖◆
「ヴェルナール殿が国軍をオルレアン郊外に派遣して欲しいと?」
光の都グランパルリエには緊張感と物々しい雰囲気が漂っていた。
「北にウェセックスの連中がいる以上、大軍を動かすことは無理ですよ?」
ベルマンドゥワはとんでもないとばかりにセルジュへと進言した。
「それはわかっているつもりですが、国土と国家としての体裁を守るためにも軍隊の派遣はせざるを得ないでしょう」
「カロリングの真の目的が判然としない以上は、何が起きても対応し得る態勢を整えて置くべきです」
アレクシアは場を落ち着かせるような声音で言った。
「軍務局に問い合わせてください。今動員できる限りの国軍がどれほどいるのかを」
王家直轄の軍隊、すなわち国軍ですら一部の兵士がオルレアンで対峙しているそんな情勢だ。
現状で書類にある兵数は揃わない。
だからこそ今一度確認して正確な情報を得るのだ。
「ファビエンヌ伯、貴方は今から先遣部隊を率いてヴェルナール殿と合流してください。近衛兵団の指揮をお願いします」
「近衛兵団をですか!?」
アレクシアは驚きの声を上げた。
近衛兵団は王自らの命に従い動く最精鋭の部隊だ、それを宰相代行とはいえ一貴族であるアレクシアに預けるなど前代未聞の話だった。
「国家存亡の危機に出し惜しみなどしてられません。私の命を受け貴方は近衛兵団を率いるのですから何も例外ではないでしょう」
部隊の総帥権はあくまでもセルジュにある。
そのセルジュの命令に従ってアレクシアが部隊を動かす、ただそれだけのことだとセルジュは言った。
「かしこまりました。それでは失礼致します」
アレクシアはすぐさまその場を去った。
「頼もしいですね」
セルジュはその背中を見つめてぽつりと言った。
アレクシアもまたヴェルナール同様にトリスタンから武術を仕込まれており、頭脳だけでなく自身が騎兵部隊の先頭で突撃をすることもあるほどの勇猛さを併せ持つ才媛だった。
それから二時間後のこと、月も登らぬ暗闇を自身の兵と共に近衛兵団二千を率いてアレクシアはグランパルリエを進発した。
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