越境

 皇帝ティベリウスの命を受け、ヴァロワ領内に侵入したカロリング帝国軍を追う形で二百七十騎を騎兵部隊がヴァロワへと入った。

 その先頭を駆けるのは、白銀の甲冑に身を包んだエレオノーラ。

 腹心のアウローラも胸甲を纏い主に続く。

 彼らは山道を駆けていた。


 「見えたぞ!」


 エレオノーラは国境の峠を越えたところでその視界にヴァロワ領内へと下る帝国軍を捉えた。

 

 「この先の分岐で道から逸れる!気取られるなよっ!」


 エレオノーラは自身がヴァロワ領内に入ったことを勘づかれれば、帝国軍に先手を打たれる、そう考えて主要街道からそれた脇道を進むことを選んだ。

 率いる騎兵はアウローラが自身のツテを活かして集めた有志の者達。

 そして彼らは、かつてアッルヴィアーナでヴェルナール率いる救世軍に救われたことに感謝の念を抱く者達でもあった。

 彼らの士気は高く険しい山道を疲れも見せずに馬を操り続けていた。


 「待っておれよ、ヴェルナール!もうすぐ妾がお主の元へ参るからな!」


 カトリコス派とプロテスタリー派の戦場となっていふオルレアンの方角を見据えながらエレオノーラは祈りのように言った。

 今にも火蓋をきりそうなアルフォンスとカロリングの全面戦争を回避すべく、エレオノーラは土煙を上げながらひたすらに西へと走るのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「ボードゥヴァンのときもそうだったが、ティベリウスもなかなかに食えない男だな」

 「カロリング皇帝は伊達じゃないという何よりの証左でしょうか」


 アンドレーと二人、ヴェルナールは方針転換を迫られていた。

 元々、両派閥の最大勢力同士をやり合わせて戦争の規模の縮小を図ることが狙いだったが、カロリング帝国軍の進出により事態は一変したのだった。


 「いっそのこと、ミッテルラントで殺しておけば良かったか……?」


 ヴェルナールは苦虫を噛み潰したような顔で言った。


 「ともあれ、最善はカトリコス勢力を潰すことか?このままではカトリコスが優位に立ちすぎる」


 穏便な最終的解決のために必要なのはバランス。

 どちらかの勢力が大きすぎることなど、あってはならないことなのだ。


 「だが、カトリコス勢力が大きいとはいえヴァロワ国内のカトリコス兵では無い……か」


 大部分を占めるのはカロリングの軍勢。

 故に、ヴァロワ国内のカトリコス勢力を潰すのは早計だという結論にヴェルナールは到る。

 

 「決めたぞアンドレー、戦闘をせずにカトリコス勢力を無力化する。その上でカトリコスと戦闘で雌雄を決する」

 

 ヴェルナールの言葉にアンドレー首を傾げる。


 「戦闘をせずに無力化……どうやるのですか?」

 「まぁ、俺の隣で見てればわかるさ」


 ヴェルナールは、いつものように自信のある表情を浮かべた。

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