エレオノーラの決意


 「父上は何をやっておるのじゃ!?」


 帝都に郡勢が集結しつつあることを知るや、その目的をアウローラに調べあげさせたエレオノーラは、その目的を知るや憤った。


 「今から、妾が止めに行く!」


 寝台から飛び起きると着替えもせず寝間着のまま慌てて部屋を出ようとする。

 しかしその前にアウローラが立ち塞がった。

 

 「殿下、それだけはなりません!」

 「どうしてなのじゃ!?妾を止めるな!」


 エレオノーラの言葉にアウローラは首を振る。


 「殿下が陛下の元に向かえば、殿下は拘束されのは間違いありません。下手したらそれ以上のことが有り得ます」

 「何故じゃ!?身内ではないか!?」

 「陛下の意思は硬いのです。此度の出兵の本当の目的、殿下はご存知ないのでしょうね……」


 アウローラは悲しげな色を瞳に浮かべた。


 「カトリック勢力の支援じゃろう?」

 「……」


 アウローラは沈黙を返す。


 「申せ!」


 物凄い剣幕でエレオノーラはアウローラへと詰め寄る。


 「陛下が出兵を決めたのは……アルフォンス公が軍勢を率いてヴァロワ入りした情報を掴んでからでした……。これに抗議した第二皇太子殿下は蟄居謹慎を言い渡され屋敷から身動きが取れないのだとか」


 アウローラから告げられた衝撃の出来事に暫しの間、エレオノーラは言葉を失った。


 「わ、妾とヴェルナールは婚姻関係となるのではなかったか!?」

 「白紙撤回ということでしょうね……」

 

 アウローラは、伏し目がちに言った。

 痛いばかりの沈黙が二人の間に漂う。

 寝台に倒れ込んだエレオノーラはきつくシーツを握り締めた。

 しかしやがて眦を決した。


 「どうされたのですか……?」

 

 普段見せない主君の表情にアウローラは思わず問いかける。


 「馬と兵を用意するのじゃ!お主のコネなら兵の数百ぐらい簡単に集められるじゃろうっ!?」

 「何を考えておられるのですか!?」

 「ヴェルナールと妾の国を守る!」

 「この国を……ですか?」


 押しも押されぬ大国、カロリング帝国が危機に陥ることなどアウローラは考えられなかった。


 「相手はあのヴェルナールじゃぞ?そう簡単に勝てるわけがない。どちらにも深い傷を残すは必定!」

 

 アウローラとてヴェルナールがどのように戦ってきたかを知っている。

 寡勢でも大軍に勝つ戦術を知る彼を相手にカロリング帝国軍が楽に勝てるはずはないとすぐさま悟った。


 「殿下と共に参ります!暫しの時間をくださいませ!」


 アウローラに協力させるためにカロリングを守るためと言ったエレオノーラ、しかし内心はカロリングを捨てでもヴェルナールの元へ走る覚悟をしていた。

 エレオノーラはヴェルナールを守るため、アウローラはカロリング帝国を守るため、決意した二人の乙女は走り出す――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る