セルジュとアレクシア

 カトリコスを支援するヒスパーニャの軍隊が一日のうちに潰走したことは、もはやヴァロワ王国内の何処にいても耳に挟むほどに拡がっていた。

 カトリコス教徒の中からは突如現れた謎の商会の軍隊の存在を追及しようという声が上がったが、如何せん彼らは情報不足だった。

 もちろんそれは、ヴェルナールがグランパルリエからの出撃と帰還を深夜にしたためだった。


 「――――ひとまずこれで何処の国からも干渉されない対立の構図となったわけですが……」

 「ようやく本題という感が否めませんね」


 アレクシアの報告を受けたセルジュは、ため息混じりに言った。

 カトリコスとプロテスタリーの対立を穏便に解決したいセルジュにとっては、ようやくスタートに立ったという状況だった。


 「何がともあれ、姉上のおかげでヴァロワをヒスパーニャとウェセックスの戦場にせずに済みました」

 「交渉のためのカードを用意してくれたのはお前のおかげだ」

 

 互いを称える姉弟にセルジュは、自分と兄弟の関係を思い浮かべた。

 どうして自分の場合は、この二人のように上手く行かなかったのだろうかと。

 

 「何はともあれここからは、セルジュ殿の腕の見せ所ですね」

 

 ここまで関係が良好な姉弟はなかなかいないんじゃないか、そんなことを考えながら二人を見つめていたセルジュにヴェルナールが声をかける。


 「二人のお膳立て、無駄にしないよう精一杯努めます」


 これ以上は望めない、そんな状況を用意してくれた二人に対して苦笑いを浮かべながらセルジュは言った。


 「我々が可能な限り支えていきますので、気負わずを敷かれませ」


 アレクシアはそう言うとヴェルナールの腰にがっちりと手を回した。


 「ここまで深く足を突っ込んでいるんだ、今更降りるなんて言わないでくれよ?」

 

 そしてそっとヴェルナールに耳打ちをするのだった。

 ヴェルナール自身は、ある程度の問題を解決したら貴国しようと考えていたわけでこれまた苦笑いを浮かべるしかなかった。

 そんな心中を察してのアレクシアの言動に、さしものヴェルナールも脱帽せざるを得なかった。

 戦場と外交の場では強気のヴェルナール、だがしかし姉を相手どっての駆け引きは苦手なのかもしれなかった。


 「私からも頼みます」


 セルジュも頭を下げた。

 さすがに一国の主に頭を下げられてはヴェルナールも頷かざるを得なかった。


 「ひょっとして二人ともグルだったのですか?」


 完全に解決するまでの帰国を諦めたヴェルナールが二人に尋ねると帰ってきたのは沈黙だった。

 実はアレクシアにもセルジュにも申し訳なさがあったのか二人ともそっぽを向くのだった。

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