会談

 「ヒスパーニャ軍は我々に対し降伏しましたので、貴国の支援は不要となりました」

 

 カトリコスとプロテスタリーの宗派対立の舞台となったヴァロワ国内。

 カトリコスを支援するヒスパーニャのヴァロワ介入をいち早く察知したウェセックスは、プロテスタリーの支援を名目に同じようにヴァロワへの介入を画策した。

 もちろん、本当の目的はプロテスタリーの支援などではない。

 対立関係にあるヒスパーニャの影響力の拡大を防ぐこと及びヒスパーニャの戦力を少しでも削ることにあった。

 ところがそのヒスパーニャが消えた今、その名目はもはや成立することはないのである。

 それ故にセルジュに交渉人を任されたアレクシアは、ウェセックス軍の駐留するアルモリカへと向かったのだ。


 「なるほど、確かに我々が介入する余地は無くなったように見えるわけだ」

 

 ウェセックス軍の総指揮を執るグラスデールは、それがどうしたと言わんばかりの態度をとる。

 

 「見える?事実その通りなのでは?」

 「ならばそなたに問おう。仮に我々が退いたとしてプロテスタリー教徒の安全は保証されるのか?」


 若手であるアレクシアを虐めてやろうという邪心の見え隠れした問いだった。

 だがその質問はアレクシアの予想の範疇だった。

 

 「ならば私からも一つ、仮に貴方がたがヴァロワにいたとしてプロテスタリー教徒の安全は保証されるのですか?」

 「それは勿論」

 「六千いたヒスパーニャの正規兵は、四千の商人の傭兵に一瞬にして負けたのです」


 ヴェルナールがウェセックスを打ち破ったという事実は、外交カードにもなっていた。


 「我々の軍とヒスパーニャ軍を一緒にしないで頂きたいですな」


 そう簡単に出来ることではない事実を前にしてもグラスデールは動じた様子を見せない。


 「それは失礼しました。ですがそれを差し置いても我々は貴国に夜我が国への介入は容認出来ません」

 「我が軍は一戦することもやぶさかではないが?」


 アレクシアの持つ外交カードの一つを無効化したグラスデールは、強気に出る。


 「貴国が名目上で支援しようとしているプロテスタリー教徒も、それから排斥しようとしているカトリコス教徒もまた我が国の民。我々はどちらか一方に肩入れすることなくこの難局を打破するという方針を定めています」

 「茨の道を行くような選択ですな。本気でそんなことが出来るとでも?」

 「やって見なければ分かりません」


 アレクシアは決然と言い放った。


 「面白い、お手並み拝見といこうじゃないか。だが一つ忠告しておこう。先程も言ったが我が国はヴァロワへの軍事介入もやぶさかでは無いのだ」


 人を食ったような態度でグラスデールは言うと、部屋を出た。

 後にグラスデールはこう語る。


 「ヴァロワの人間にしておくには惜しい人間と出会った」


 弟が傑物だとするならば、その姉もまた傑物なのだった。

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