意見交換会

 その日、オルレアンの大聖堂においてカトリコス教徒の代表とプロテスタリー教徒の代表、そしてセルジュが参席しての意見交換会が開かれた。

 セルジュの指示によるもので、ヴェルナールもその場にヴァロワの政治顧問として宰相代理である姉のアレクシアとともに参加していた。

 セルジュの執政はアルフォンス偏重なのでは、という声をあげる者もいたがヴァロワの国体維持のためにアルフォンスの姉弟がどれだけ尽力しているかを前にしては声を大にすることは出来なかった。


 「陛下の御前です。恥じ入ることの無い意見交換会にしましょう」

 

 十数人が居合わせる長いテーブルの右側、それも一番上座に近いところに座ったコリニー将軍がそう言った。

 すると対面に座るカトリコス派のギュイーズ公が不満を隠そうともせずに言った。


 「粗野な軍官風情にも恥じる心はあるのだな」


 馬鹿にするだけでなく卑下するような態度にプロテスタリー派の貴族達は抗議しようとするがそれをコリニーは手で制した。


 「言わせておけ」


 コリニーはそう言ってギュイーズを睨め据える。

 まさに一戦が起こりそうな、そんな雰囲気が静謐な大聖堂に漂った。


 「諍い合うのはそこまでにしなさい」


 一同に遅れて席についたセルジュは、ため息混じりに言った。


 「諍いあってなどおりませぬ。己の身分も弁えず生意気な言動をする平民に道理を教えていたまでで御座います」


 仮にも王であるセルジュの手前、言葉こそは丁寧なものの一向に悪びれもしなかった。


 「コリニーはそれでいいのか?」

 「良くはありませぬ。が、議論を進めるためにここは我慢致します」

 「そうか……」


 申し訳なさいっぱいの顔でセルジュはコリニーを見た。


 「思った以上にこの国の貴族は無能だろう?」

 「のようですね」


 席には座らず離れた柱の影でアレクシアとヴェルナールはじっと様子を見ていた。

 アレクシアはつまらなそうにギュイーズ公を見ていた。


 「ギュイーズ公の陣営に死んでも影響のない大貴族はいますか?」

 「殺す気か?」

 「これ以上騒ぎを起こすことなくこの動乱を鎮めようというのなら、それも考慮すべきでしょう」


 あくまでも最終手段ではあるがウェセックスが未だに介入をチラつかせている以上、時間の猶予はそれほど無かった。


 「そうか……セルジュ陛下の指図に従う貴族はそこまで多いわけじゃない。それ故に言ってしまえば誰を殺したところで今後の政治に影響はない」


 アレクシアは殺るなら誰でもいいと言外に告げた。


 「そうですか。ならば一応、実行のために準備だけは進めておきます」

 「お前の好きにしろ。むしろ陛下に従わない貴族が減る方が色々やりやすいからな」


 家督を継ぐ者する者すらも殺してしまえば、領地を召し上げることだってできる。

 極論を言ってしまえばアルフォンス公国が封建制度でないのと同じように、全てを直轄領にしてしまえばそれだけ施政は楽なのだ。


 「もう少し様子を見ますが、どうにも打つ手なしという場合は、やりやすいようにやらてもらいます」


 国民を含めてヴァロワという国をアレクシアは守りたいと考えていたが、その中にギュイーズ公のような貴族は含まれていなかった。

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