奇襲

 「あそこがヒスパーニャ軍の陣地か」


 橋を巡って両軍が激戦を繰り広げている頃、ヴェルナール達は下流で渡河していた。


 「偵察の情報に間違いが無ければ」

 「ばらばらになりながら兵士達が退却していることから間違いない」


 ヴェルナールはヒスパーニャ軍が撤退するとわかるや否や、アレクシアの兵を除く六千を連れて下流で渡河して奇襲を行うことを計画した。


 「出来れば指揮官の捕縛までしたいところだが、最優先は敵の撃滅だ。アンドレー、お前は銃兵三百と歩兵五百を率いて敵陣の後背を突け。タイミングは任せる」

 「閣下のおそばを離れることになりますが?」

 「戦場までアンドレーに守られてるようでは、トリスタンにアヴィス騎士団を率いる者として失格を言い渡されそうでな」


 ヴェルナールは冗談めかして言った。

 トリスタンは現在、新しく領内で徴募した騎兵の練兵の真っ最中でヴェルナールに同行していなかった。

 

 「なるほど、心得ました。では行って参ります」


 アンドレーは一礼すると、すぐさま兵を率いて川沿いに下って行った。


 「さて、敵陣の兵士達を増やす道理はない」

 「退却中の敵に打って出ますか?」

 「そうだ。だがノエル、お前にはここで指揮を執ってもらいたい」

 「分かりました。ご武運を」


 ヴェルナールは馬上の人となる。

 その動作に合わせて騎兵達もまた馬に跨った。

 

 「騎兵及び銃騎兵は続け!」

 

 ヴェルナールをよく通る声で指示を飛ばすと駆け出した。

 その後ろに続くは千余の騎兵達。

 領土の拡大に合わせて騎兵の数も大幅に増えていた。

 先頭を駆けるのは銃騎兵三百、そして後ろにはアヴィス騎士団四百、その両脇を固めるのは新たに編成された軽騎兵達だった。

 土煙を巻き上げながら騎兵達は地鳴りとともに大地を駆ける。

 その場に吟遊詩人でもいたのなら吟じたくなるだろう光景だった。


 「総員、抜剣!」


 敵陣まで二百メートルを切った頃、騎兵たちは一斉に各々の得物を煌めかせた。


 「て、敵襲!」

 「迎え撃て!」

 「逃げろ!」


 地響きと土煙に疲労の色濃いヒスパーニャ兵達も北側から横隊突撃を敢行してくる騎兵の姿に気付いた。

 だが予想外の襲撃に長く伸びきった隊列では、迎え撃つことも困難だ。

 錯綜する指示に混乱する兵達、何一つ取っても今のヒスパーニャ兵達に勝てる要素は見いだせない。


 「突撃!」


 ヴェルナールを先頭に千余の騎兵がその隊列へと突っ込む。

 敵の向こう側へ抜けては折り返しての反復攻撃にヒスパーニャ兵は翻弄された。

 そして面白いように屍を積み上げていく。

 初動の攻撃は、ヴェルナール側の圧勝だった。

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