謂われなき理由で領地を没収されそうなので独立してもいいですか？〜天才公爵の興国譚〜

ルネティナ橋

　八千もの兵士が現れたことにさしもの敵も警戒感と第三国のテコ入れを疑ったのか、ヴェルナール達の元にヒスパーニャ軍からの使者がすぐさまやってきた。

　「我が主、エルメネヒルド将軍閣下は貴殿らの部隊は民兵に非ず、正規軍であると見ております。貴殿らの所属を明らかにして頂きたい！」

　そう言って若い使者の男は、その表情の変化一つも逃すまいと油断なくヴェルナールを見つめた。

　「まぁ、そう怖い顔をしなくてもいいじゃねぇか？お前さんたちの思うほど大した存在じゃないさ。俺は、さる商会の人間でコイツらは皆、傭兵だ。正規軍なんて飛んでもない」

　ヴェルナールは芝居がかった仕草で言うも、使者からの疑いは晴れない。

　「ならば、なぜ商会がこの争いに介入するのかを明確に示して頂きたい」

　「あんまり言いたくないんだがなぁ……この際言っちまおうか」

　そこから先はヴェルナールお得意の作り話だ。

　「うちの商会じゃぁ、プロテスタリーの民兵連中に金を貸し付けてましてね、勝てなきゃ元すら取れねぇってんで傭兵を雇って介入することにしたのさ」

　「貴殿の商会は、随分とリスキーなこともするんだな」

　「そのリスクを回避するのは商人の腕。そんでそのリスクを犯してでも取りたい利益ってのがあんだよ」

　「それを聞いても？」

　「いずれわかるさ。さぁ、お客人がお帰りだ！見送ってさしあげろ！」

　これ以上は言うこともないし面倒だ、とヴェルナールは使者の男に強引ではあるがお引き取り願うことにした。

　「な、まだ話は終わっていない！」

　「終わったさ」

　「おい、その手を離せ！」

　ズルズルと引き摺られながら使者は、ヴェルナールの前から去っていく。

　「後悔することになるぞ！」

　最後の足掻きとばかりに去り際に放った一言にヴェルナールは笑みを浮かべて

　「戦場でお目にかかりましょう」

　と言って見送った。

　◆❖◇◇❖◆

　その日の戦闘は街の南北を分断するように流れるロアール川を渡す唯一の橋、ルネティナ橋を巡って行われた。

　「敵、盾を押し出して来ます！」

　南岸から、橋の上を横一列に盾兵を並べてヒスパーニャ軍が前進を開始した。

　「矢を放てっ！」

　陣頭指揮を執るコリニー将軍の指示のもと、北岸から放たれる幾百の矢。

　しかしその大半は、歩兵の持つ盾によって阻まれる。

　そしてヒスパーニャ軍は少しずつ橋を渡り始めるのだ。

　「何をやってるんだかな……」

　ヴェルナールは自陣から橋の様子を眺めていた。

　「閣下、コリニー将軍から参戦要請が届いていますが？」

　「遊ばせる兵はないということか……｡弓箭兵五百に用意をさせろ」

　「銃兵は如何しましょうか？」

　「まだ早い」

　ヴェルナールは不敵に笑うと腰をあげたのだった。