オルレアン入り

 二千の兵をグランパルリエとオルレアンとの間に街道の抑えとして配置し、残る六千の兵を率いてヴェルナールは、オルレアンの街へと入った。

 行軍日程は三日間である。

 各貴族の集めた軍隊や、武装した民衆の犇めくロアール川の北岸がプロテスタリー派の実効支配地域だった。


 「凄い出迎えだな」


 隣で駒を進めるアレクシアは、目抜き通りで自分達を出迎えるプロテスタリー教徒達の数に驚いていた。


 「上手く正体を誤魔化せるかが問題ですね」


 表面上はプロテスタリー教徒による民兵団を装ってはいるが、目的はオルレアンのプロテスタリー教徒達の支援ではなくヒスパーニャ軍の撃滅だった。

 どちらかに肩入れをすることを避けたいセルジュの意向に従うのなら、ヒスパーニャ軍を打破してプロテスタリー教徒を勢いづかせるような真似はしたくないところ。

 しかし、ウェセックス連合王国とヒスパーニャの代理戦争の戦場にしないためにはヒスパーニャ軍の撃滅をせねばならず、ヴァロワとヒスパーニャの国家間での対立を避けるためにはプロテスタリーの民兵団を装う他なかった。


 「私は嘘をつくのが苦手な性分だ、その辺は頼む。私の立場を聞かれたら同僚でも副官でも……あ、愛妾でも……つ、妻でもいい。お前が不都合にならないように紹介してくれ」


 言葉に詰まりながらアレクシアが言うとヴェルナールはどうして言葉が詰まるのか不思議でしょうがないというような表情を浮かべた。

 やがてオルレアン大聖堂の前まで行軍してきたところで、何人かに囲まれながら騎乗した男が近づいてきた。


 「支援痛み入る。私はプロテスタリー戦線を率いるコリニーという。君達の所属か身元、出身を尋ねてもいいかな?」


 どうやらコリニー将軍には顔がバレていないようだとヴェルナールは一安心した。

 一方のアレクシアはというと、黒い布で鼻から下を覆いコリニーとは目を合わせぬようにしていた。


 「名乗るようなものじゃない。俺の率いてきた部隊は金で雇った傭兵さ」


 六千の傭兵、さすがに設定として無理があったがコリニーは詮索するようなことはしなかった。


 「なに、そんだけの財がある商会ってことよ」


 平民の口調を意識して話すヴェルナールをコリニーはしばし見つめると手を差し出した。

 ヴェルナールとコリニーは固い握手を交わす。

 アレクシアは自分の身元が訊かれるのでは?と思っていたがそれが杞憂に終わったことがわかると黒い布の下で顔を赤らめた。

 そしてさっき何てことを口走ったんだと後悔したのだった。


 「私の指揮下に入って貰うことは可能か?」


 手を離したところでコリニーはヴェルナールに問いかける。

 その問いにヴェルナールは静かに首を横に振った。

 

 「残念ながらそれは出来ないな。だが安心してくれ。最も装備の整ったヒスパーニャの連中は俺の兵で片付ける」

 

 自身の指揮下に入らないということに顔を顰めたコリニーだったが自信満々に言うヴェルナールに呆気に取られた。


 「いいだろう?一度吐いた言葉は貫き通す。俺の信条さ」

 

 ヴェルナールがにじり寄って言うとコリニーの疑念もそこまでだった。


 「わ、わかった。君達の活躍を祈る」


 調子が狂ったな……とでも言いたげにコリニーは元来た方へと戻って行った。


 「姉上、どうにか誤魔化せました」

 

 平民らしい口調をやめていつもの丁寧な口調に戻ったヴェルナールに


 「さ、さっきのは忘れてくれ」


 アレクシアは、黒い布を外すことが出来ないまま言ったのだった。

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