第167話 ノエルの気持ち
結局、修道院図書館を無事に抜け出すことは出来なかったヴェルナール達は、あとから駆けつけてきた随伴員達とともに戦闘となった。
随伴員の側も無傷とはいかず死傷者を出す結果となったが、逃亡した一部の護教騎士団員を除いてミッテルラント市に来ていた護教騎士団の無力化に成功した。
「ひとまず、後方での任務実行部隊をタルヴァンは喪失したことになるな」
与えられた宿所の自室でヴェルナールは一息ついた。
「って……誰もいなかったな……」
いつも甲斐甲斐しくヴェルナールの世話をしたり話し相手になってくれる頼れる補佐役ノエルは、別室で傷の手当を受けていた。
そしてヴェルナールは気付く。
「いつの間にか俺の中でノエルは大きな存在になっているんだな……。ノエルがいない瞬間がこうも物足りなく寂しいとは……」
補佐役をトリスタンから交代すると言われたときは、喪失感が凄かったが今ではトリスタン以上に失い難いものになっていた。
間諜達を率いる能力はもちろんのこと、女性としては外見性格ともに可愛いく正直言って異性として見てたりもする。
もっともヴェルナールは公爵という立場で然るべき立場の女性と婚姻しなきゃいけないということを本人もノエルも嫌という程に分かっていた。
ちなみにヴェルナールの妹レティシアはノエルとヴェルナールの婚姻を推していたりする。
自分が今後、ノエルに対しての気持ちをどうして行くか……小さく芽生えた気持ちのやりどころに困りながらヴェルナールは眠りに落ちた。
◆❖◇◇❖◆
「閣下、起きてますか……?」
体のあちこちに処置の痕のあるノエルがヴェルナールの部屋を訪れたのは夜もすっかりふけた深夜のこと。
もちろんヴェルナールは静かな寝息を立てて机に突っ伏しており、声に応えることは無い。
でもノエルにとってはそれで良かった。
前のめりになったヴェルナールの背中にちょこんと体重を預けるとノエルは息を着く。
「今日で殿下に命を助けてもらったのに二回目ですね……」
ヴェルナールによっかかるとノエルは独白するとように言った。
「閣下のダメなところもかっこいいところも好きです。一緒にいて楽しいですし……私、補佐役になれて良かったって思ってます。無茶ぶりはやめて欲しいですけど……」
ヴェルナールは、ノエルの声に気づいてうっすら目を開けた。
でも敢えて気づかない振りをして目を瞑る。
気恥しいのかその顔は若干赤くなっていた。
「閣下は寝てるから今ならわがまま言ってもいいですよね?閣下……いえ、ヴェルナール様、あなたが好きです」
ノエル自身も顔を赤らめながら、それでもよどみなく想いを口にする。
「あ〜っ、やっぱり恥ずかしすぎます!」
そして、ピューッと旋風のようにヴェルナールの部屋から出ていくのだった。
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