第161話 ノエルの復讐
「閣下……私一人で行きます」
ノエルは、ヴェルナールの頬を優しく撫でながら静かに言うとヴェルナールの枕元から去った。
もちろん、寝息を漏らすヴェルナールが見送る言葉を発することは無い。
「ノエル殿、いいのですか?」
寝室を出たところでその小さな背中に掛けられる声。
「部下の仇……私怨に閣下の手を煩わせるわけにはいかないですから」
「そうですか……」
ノエルの心中察するに余りあるアンドレーは、ノエルの背中を見送ることしか出来なかった。
ノエルは、黒いフードを目深に被ると宿所を出た。
そして何処からか現れる黒い影は彼女の部下だった。
しかし、彼らも何事かをノエルに伝えただけでその場を去っていく。
夜露に濡れた石畳の通りをゆくのはノエル一人だった。
通りを見下ろす窓からアンドレーは、ノエルの無事を静かに祈るのだった。
「ノエル様、護教騎士団の活動拠点は修道院図書館と思われます」
「そうか。クルデーレはそこにいるか。お前達は仕事に戻れ。あとは私が殺る」
ノエルとて腕に自信が無いわけじゃない。
アルフォンスの間諜、他国で言えば隠密の頭目でいられるくらいには腕が立つ。
そして知恵も回る。
しかし勝負に絶対という言葉がないように、ノエルはクルデーレの力量を自分と同等か或いは自分以上とみていた。
だからこそ、万が一に備えて自分の後任に引き継ぎの用意もしてもらった。
少しでもヴェルナールの政務に支障をきたさないようにするための配慮だった。
「ついたか……」
大聖堂に付随する形で建築されていることが多い修道院図書館の中でもミッテルラントの修道院図書館はとりわけ規模が大きい。
建物の裏手、石垣が僅かに崩れたところから音も立てずにノエルは侵入した。
そして短剣を抜くと足音を消して壁を張り付くように移動する。
視界に二人の騎士を捉えた。
馬には乗らず、剣帯を外して談笑している。
ノエルは建物の影の中を移動して彼らのすぐ近くまで来た。
息を殺し足音を忍ばせ気配を消して近づいたノエルは、迷いなく後ろから一人の声帯を刺し貫いた。
続けてもう一人、後ろから手を回し喉へと短剣を突きつける。
その時間、僅かに数秒。
「クルデーレは何処にいる?言えば貴様の命を……言わなくても続きは分かるな?」
喉に剣を突きつけられた男は震える声で
「最奥の書斎に……今は、おそらく娼婦と一緒に――――ガヒュッ!?」
ノエルは用は済んだとばかり喉へと刃を走らせた。
そして図書館へと侵入した。
幸いにもエントランスに敵の姿は無く、回廊で出会った敵は、物陰でやり過ごすか戦闘に持ち込むことで無力化していきついに最奥の部屋に辿り着いた。
「この無効にクルデーレが……」
ノエルは短剣を握る手に力を込める。
ノエルとクルデーレの対決は間近だった。
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