第154話 次なる一手

 三日目を迎えた選帝侯会議。

 選帝侯や司教達は、疑心暗鬼に陥っていた。

 次は自分が殺されるのでは無いか?

 帰国したいがここで帰国すれば自分が犯人に仕立てあげられるのでは無いか?

 疑心暗鬼が疑心暗鬼を呼ぶ螺旋。


 「北プロシャ選帝侯を襲ったのは誰だと思う?ノエルの意見を聞かせてくれ」

 

 さすがのヴェルナールもラウエンベルク殺害の指示を出した人間を絞りきれないでいた。


 「普通に考えれば反タルヴァン派の人間によるものだと考えられますが、穿った考え方をしてみるとアルフォンス攻略に失敗したその責任を追求するためにタルヴァン派が行った犯行とも考えられます」


 現時点で派閥が明らかになっているまたは、明らかにしているのは以下の通りで

 ・ティベリウス→コルネリウス派

 ・ヴュルツブルク司教(死亡)→タルヴァン派

 ・ラウエンベルク(死亡)→タルヴァン派

 

 といった具合であとは不明だった。

 そしてカロリング帝国に追従することの多いミュンヘベルク大公やアオスタ公がどう出るのか、今後の大きな注目点であった。

 このまま行けばティベリウスの推挙するコルネリウスが次期法皇としてその座に就く可能性がある。

 だがそれはミュンヘベルク大公やっ アオスタ公にとって、カロリングの権勢の拡大を招くことに他ならない。

 主権国家として独立を保つ彼らがそれを良しとするのかは謎だ。


 「現状タルヴァン派であることが明らかである選帝侯も司教も殺された。その事実から考えればティベリウスの指示による殺害であることも考えられる。ノエル、アオスタ公の警護に人員を割けるか?」

 

 尻尾を掴ませないのなら尻尾を掴めそうなところで待つまでだ、とヴェルナールは次の行動に移る。


 「可能ですが……閣下の護衛が少しばかり減りますよ?」

 「お前がいればいい」


 ヴェルナールは自身の剣技にそれなりに自信があった。

 ゆえに最悪それで切り抜ければいいと考えていた。

 しかしノエルにヴェルナールの発言の主旨が伝わっていたかは微妙なところだった。

 ノエルは顔を少し赤らめると恥ずかしそうに、ヴェルナールの命令に従うのだった。


 「それと俺は今からティベリウスの元へ向かう」

 

 自らラウエンベルク殺害の犯人かもしれないと判断した人物に自分から近づくというヴェルナールの考えにノエルは首を傾げた。


 「何故ですか?ひょっとしたらティベリウスは閣下を貶めるために殺害を画策したのかもしれないのですよ!?そんなところに行ったら閣下が殺されてしまうかもしれない!」


 慌てて話すノエルをヴェルナールは手で制した。


 「そうかもしれないな。だからこそ、だ。それを確認するための餌を撒くのさ」


 ヴェルナールはそう言うと不敵に笑ってみせた。

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