第153話 セルジュの苦難

 ヴェルナール達がヘルベティアにいる頃、アルフォンス公国の西の隣国ヴァロワ朝もまた宗教対立に揺れていた。


 「準備は整ったか!?」

 「兵二百、既に出陣準備は整っております!」

 「そうか、よし!これより我々は乞食野郎ユグノー共を狩りに行く!我々の手で新教徒どもを抹殺する聖戦を起こすのだ!」


 そう高らかに言ったのは『カトリコス同盟』なる派閥をヴァロワ朝に仕える貴族の中で組織する大貴族、ギュイーズ公だった。

 国を乱すことも厭わないその姿勢は、彼がセルジュ陣営の貴族でなかったことに起因する。

 ちなみに乞食野郎ユグノーというのは、カトリコス側の新教徒プロテスタリーに対しての嘲りを込めた呼び名で新教徒プロテスタリーらは、カトリコス教徒を法皇走狗パピストと罵っていた。

 ギュイーズ公率いる一団は領内で礼拝を行うプロテスタリー派の教会を取り囲むと次々と火を放った。

 さらに教徒達が礼拝堂から逃げ出たところをギュイーズ公の兵達が容赦なく切り捨てていく。


 「死ねやぁっ!」

 「命だけは!どうか……ゴブッ!?」

 「お腹の中には赤子がいるのです!お助けを!」

 「穢らわしい乞食野郎ユグノーの子供は乞食野郎ユグノーになるからなぁ?間引いておかねば!」


 命乞いをする無辜なる教徒達は、ただ宗派が違うというそれだけの理由で無慈悲の斬撃の餌食となった。

 奇しくもそれは、セルジュ王が新教徒の信仰の自由を認める勅令を発した翌日の出来事だった。


 「こういうとき、ヴェルナール殿がいればきっとすぐさま最適解を示してくれるのに……」


 自らの居室で吐いたセルジュの弱音を妹のオレリアが鼻で笑って一蹴する。


 「兄上はそんなんだから、臣従する貴族共に舐められているのよ?」

 「そうだな……。国王たる者、もっと強く在らねば」


 自らの派閥がいない状態からヴェルナールの力を借りて国王の座に就いたセルジュ、しかしその権威が国内の貴族達に行き渡っているとは言い難く政治は難航している。


 「とにもかくにもギュイーズ公を今すぐここへ呼ぶよう手配させよう」


 ギュイーズ公爵の率いるカトリコス同盟の持つもう一つの顔は旧家の貴族の集まり。

 新興貴族とともに広がるプロテスタリーと危機感を抱いた古株の貴族の集まりであるカトリコス同盟の対立は、元々ある程度は根付いていた問題ではあった。

 それは勿論、先の王位継承内戦での対立にも影響を及ぼしている。

 だがそれがなぜ今になって騒がれているかと言えば、やはりセルジュの影響力の無さだった。

 いくらアルフォンス公国やアルモリカ公国との結び付きが強いとはいえ、ヴァロワ朝の方が国力は大きい。

 したがってヴァロワ朝の大貴族からすれば、それらは大した影響にはなり得ないのだ。

 元々支援してくれる派閥のない王の悲しいところだった。

 それでもセルジュは、国内で目に見えて燃え始めた対立の火をどう消すのかと、理想の国を夢見て頭を悩ますのだった。

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