第151話 毒牙
「おぉ……それは誠か!?」
「なんということぞ!?」
「首謀者を必ずや捕らえねばなりますまい」
夜に再集合となった選帝侯や司教達は口々に騒いだ。
ヴュルツブルク司教殺害の下手人を知るティベリウスはヴェルナールに意味深な視線を送る。
「下手人を探すことも大事ですが、司教一人の死という代償を払った我々は必ずやこの選帝侯会議を意味あるものにすべきではないでしょうか?」
ヴェルナールはよく通る声で諭すように言った。
「ヴェルナール殿は、なぜ落ち着いておられるのか!?」
「よもや犯人なのでは!?」
何人かがそう言うもヴェルナールは表情一つ変えない。
「このような事態が起きたとき、下手人は驚いたような或いは悲嘆にくれるような、はたまた下手人を捕らえるという使命感に駆られる芝居をし周囲に溶け込むことはよくあること。むしろ、私を除くこの中の誰かが犯人と考えますが?」
犯人は「お前らの中にいる」という主旨のヴェルナールの発言に一同は響く。
「それは確かにそうだ!ヴェルナール殿と私は目の前で倒れるヴュルツブルク公を見たのだから!」
バンベルク司教がヴェルナールに追従した。
「その場で私は傷の処置を行おうとし、バンベルク司教は人を呼びに行った。私とバンベルク司教はヴュルツブルク公を助けようとしたのだ。そんな我々を疑おうものなら神罰が下りましょうな」
命を奪うのでは無く助けようとしたという事実。
そしてヴェルナール以外にバンベルク司教の証言によりヴェルナールへの疑いは晴れた。
「ヴェルナール殿の言う通り、無実の人を殺した人間には、天罰が降るというもの。今我々が成すべきは下手人の創作ではなく、この選帝侯会議を有意義なものにするべきだと儂は思うがの」
ティベリウスの言葉が終止符となりそれ以上、下手人を探そうという動きは起こらなかった。
だが、司教の死に参席者達は気もそぞろ。
落ち着いて議論が出来ないならば意味なし、と判断したティベリウスの鶴の一声でお開きとなった。
「ふふっ、芝居が上手いのぉ」
己の指図で今頃始まっている第二の惨劇の光景を脳裏で描きながら、ティベリウスは独りごちた。
「じゃが、果たしてそれはどこまで通用するか……見ものじゃな」
その惨劇はヴェルナールを慕う愛娘のエレオノーラには到底言えないものだった。
「今日のところは、のうのうと眠っているがいい。だがこれから先、お前とお前の国はどうなるだろうかのぉ」
ついに血腥い争いを経てカロリング皇帝の座に就いた男の毒牙がヴェルナールへと向けられたのだった。
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