第148話 ティベリウスもまた……
「もはや手段は問わないということか……」
ティベリウスはいつもの好々爺然とした表情では無い。
誰も知る人のいない野心家としての表情を浮かべたまま静かに言った。
書簡には宗教の派閥争い及び法皇の空座を憂え司教も混じえての選帝侯会議を前回同様ミッテルラントにて行いたいと書かれていた。
そしてその書簡の中に折り畳まれている紙には、ティベリウスの推す次期選帝侯候補を支援する用意があるとも書かれていた。
多くの兄弟の中から、皇帝の座に就くに至ったティベリウスはすぐさまヴェルナールの意図を察した。
要約してしまえば「ヴュルツブルク公バルバロッサを殺す機会を作ってくれれば、ティベリウスの推す次期選帝侯のためにもなる」ということなのだ。
カトリコスとプロテスタリーの派閥争いを憂うことなどお題目でしかない。
「バルバロッサの暗殺には協力できるが、カロリング皇帝を少しばかり舐めておるのではないのか?ヴェルナールを御しえないのならば潰してしまえばいい。このティベリウスはそう思っている男なのじゃぞ?」
ティベリウスは昨今その力を増大させつつあるアルフォンス公国を制御するために娘のエレオノーラとヴェルナールの婚姻を目論んでいた。
そしてその拡大を抑えるために裏ではエルンシュタットとベルジクの間を取り持つこともしていた。
言ってしまえばタルヴァンとは別口でアルフォンス公国と大陸中央同盟の対立を仕組んだ張本人だった。
そしてそのティベリウスは今、さらなる成長を遂げたアルフォンス公国を前に気持ちは廃絶へと傾き始めていた。
カトリコス派の総本山の後ろ盾たるカロリング帝国の永劫の繁栄を願う皇帝として、最大の敵となるのはアルフォンス公国と考えていたのだ。
「まだそのときまでよ時間はある。じっくり練るとしようか……」
ヴェルナールの申し出に応じる旨を記した書簡を認めると、如何にしてアルフォンス公国を解体していくかを考えながら当代のカロリング皇帝は眠りに落ちた。
◆❖❖◆
それから実に三週間後のこと、選帝侯会議が開催されるに至った。
開催地はヴェルナールの要求通り、ヘルベティア共和国ミッテルラントだった。
ヴュルツブルク司教をはじめ、バンベルク司教、アイヒシュテット司教、そして五人の選帝侯が次々にヘルベティアへと入国した。
各司教は勿論、カトリコス派であることを明言しており会議に開催に携わったヘルベティア共和国側の人間からの反応は芳しくない。
それでもなお彼らのことは省みず、それぞれの陰謀が、策略が渦巻く選帝侯会議は開催されることとなった。
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