第149話 会議は踊る(1)

 「さて全員揃ったようだ」


 礼拝堂に設けられた会議の席、最も祭壇に近いところに座るのは選帝侯達の中でとりわけ大きな力を持つカロリング皇帝ティベリウスとその対面に会議の開催を提案したヴェルナールだった。

 そして一番遠いところにいるのが、司教になってから日も浅いヴュルツブルク公バルバロッサだ。

 言ってしまえば、影響力が大きい順だ。

 カロリング帝国の影響力が大きいのはもちろんの事、アルフォンス公国も選帝侯の中ではカロリングに準ずる国力を持ち合わせている。

 もっともその差はかなりのものではあるが。


 「この度は御足労いただき感謝する。まぁ儂の提案ではなく、そこおるアルフォンス公よりの申し出だがの」


 そう言ってティベリウスは視線をヴェルナールへと向けた。

 その視線の意味は、あとはヴェルナールから話せというものだ。


 「此度の司教同席の選帝侯会議を開催した理由はカロリングからの書簡の通りで、激化する派閥での対立及び、空座の法皇の座に誰を就けるかについて話し合う場を設けるためです。勿論、各々が派閥に属していることとは思いますが、今回の会議においては己の利権は忘れて大陸のために、そして多くのミトラ教徒のためを思って議論していただきたい」


 まぁ無理だろうけどな、とヴェルナールは内心思っているがそんなことはおくびにも出さない。

 というよりここにいる誰もがそれが無理であることを知っていた。


 「というわけだ、我々が宗教的混沌に陥ったミトラ教徒と大陸を救うことが出来るような会議を始めていこう」


 ティベリウスがそう言って挨拶を締めくくりそれぞれの思惑が交錯する選帝侯会議は幕を開けた。

 

 「―――――以上で、今日のところは終わるとしようかの」


 議論が始まってから二時間あまり、これといって何かを導き出すには至らない会話にティベリウスが終止符を打った。

 一日目の会議が散会となった宿所への帰路、ヴェルナールは小さな紙きれをバルバロッサとバンベルク司教の二人に渡した。

 内容は『所領の近い三人で今後について話し合いたい』というものだった。

 内容だけでは一見、納得のいくものである。

 だが紙切れを渡したヴェルナールにそんなつもりは毛頭ない。

 ヴェルナールは会議初日のうちに選帝侯会議を開く当初の目的を果たすことにしたのだった。

 しかしそれは、選帝侯会議におけるの犠牲者を出す引鉄にすぎなかった。


 ◆❖◇◇❖◆

 

 「閣下、準備が整いました」


 夕刻、ノエルが目をつぶっていたヴェルナールをそっと起こした。


 「そうか。それならそろそろ行くか」


 起き上がって伸びをするヴェルナールの足取りは心做しか軽かった。

 なぜなら、懸案事項がこれから一つ無くなるのだから。

 ヴェルナールは自らに向く毒牙を知らぬまま、集合場所へと向かうのだった。

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