第147話 手段を選ばないのなら

 「詫びの書簡か……あくまでも知らないフリか」


 バルバロッサから先日の襲撃に対しての警備の甘さを詫びる旨を記した書簡が届いた。


 「閣下が命の危険に晒されたと知って家臣団はヴュルツブルク公に憤慨しています」


 ノエルは困ったような表情を浮かべた。


 「そうか。押さえつけてもいいがさすがに俺も内心憤っている」


 もっともバルバロッサを政治の舞台から引きずり下ろすために敢えて罠とわかっていた狩りに参加したのだ。


 「もしかしたらことに及ばないのでは?とも思ったが甘かったな」


 お陰でバルバロッサの人柄も推し量ることが出来た。

 自分の計画の遂行のためには手段を選ば選ばない、それでいて冷徹な判断のできる男。

 一番敵に回したくないタイプの人間だ。


 「血濡れのまま、彼奴の要塞に乗り込んでも良かったが、どの道シラをきられそうだし最悪、多勢に無勢で殺されかねない」

 「こちらの随伴員の数十倍は簡単に動員できますからね」


 ノエルは主がそんな選択をしなくてよかったと胸をなで下ろした。


 「まぁ向こうが手段を選ばない以上、こちらが手段を選ぶ必要は無い」


 ヴェルナールは、にやりと笑って言った。

 

 「ただ暗殺すればシュヴァーベン同盟が黙っちゃいないだろう」

 

 シュヴァーベン同盟は、歩兵戦力一万二千に加え騎兵千二百を動員できるだけの力がある。

 そんなのを真っ向から相手出来るだけの体力は、今のアルフォンス公国にはない。

 だからこそ―――――とヴェルナールは一つの計画を用意していた。


 「ノエル、今から一筆書く。使者を用立ててティベリウスに渡してくれ」


 ミッテルラントにおいてたった三ヶ月前に行われた選帝侯会議。

 ヴェルナールはカロリングの協力を得て再び執り行うことを考えていた。

 しかしその会議は、これまでと異なり司教を参加させるというものだった。

 

 「ティベリウスが俺の意を汲んでくれたのなら、必ず開催に力を貸してくれる」


 ヴェルナールは、自信たっぷりに言った。

 会議の開催予定地は、前回同様のヘルベティア共和国のミッテルラント市。

 プロテスタリー派が人口の多数を占める都市において行われる選帝侯会議にカトリコス派の司教の参席。

 ノエルは、即座にヴェルナールの求めるこの会議における成果について理解した。


 「ティベリウスに利益はあるのですか?」


 皇帝ティベリウスが束ねるカロリング帝国は、カトリコスの総本山。

 ノエルには同じカトリコス派の重要人物を殺すことの利益がティベリウスにあるとは思えなかった。


 「なに、タルヴァンの息のかかった者を殺すのにティベリウスが利益を見出さないはずがない」


 なぜならイリュリア大同盟との戦争で疲弊したカロリング帝国に以前ほどの影響力はなくティベリウス自らが擁立した次期法皇候補を支援する派閥が少ないからだ。

 少しでもタルヴァン派の力を削げるのならティベリウスは間違いなく協力してくれる、そうヴェルナールは考えていた。

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