第141話 対立

 ユトランド評議会陣営の国家の人口を宗教の観点から見たとき、過半を占めるのはカトリコスの教徒だった。

 前法皇カラファの死去によって激化しつつある派閥争いは、大陸北部のユトランド評議会陣営各国にまで波及しつつあった。

 一方で内海を挟んで相見えるノルデン主義連合各国は、プロテスタリー派閥のミトラ教徒が多く大陸北部に迫りつつある戦乱の気配にはそういった背景があった。

 

 「閣下、一部カトリコス教徒による暴走の企ての阻止に成功しました」


 ノエルの報告にヴェルナールは渋面を浮かべた。


 「余計なことをしたのはタルヴァンだろうな……」


 珍しく不機嫌なヴェルナールにノエルはそれ以上自分から声をかけるのはやめた。

 大陸中央同盟との戦争に明け暮れている間にカトリコスとプロテスタリーの対立は広がってしまっていた。


 「どうして人を救うはずの神サマが、争いの種になっちゃってるんだろうね!?」

 「それを言ってはお終いですよ?」


 宗教を皮肉るヴェルナールに内心同意しつつも窘めるノエル。

 アルフォンス公国国内にも波及しつつある宗教的対立をどう鎮静化を図るのか、それが昨今のヴェルナールの一番大きな悩みの種であった。

 おまけに対立を煽りかねないヴュルツブルク公の司教就任と司教領の領有。

 国教はミトラ教であれど、派閥までは事細かに定めていない。

 この際、人口の過半を占めるカトリコスと定めてしまっては?という家臣達の意見もあったがそれでは数的マイノリティのプロテスタリー教徒達を捨ててしまうことになる。

 それは到底容認できるものではなかった。

 

 「なぁ選帝侯ってどっちの割合が多かったっけ?」

 「北プロシャ選帝侯を除く全員がカトリコスが人口の過半を占める国家です。ことアオスタ公やカロリング皇帝に関してはその領民のほとんどがカトリコスですね」

 「仮に俺がプロテスタリーとして立場を表明するとどうなる?」

 「まぁ、叩かれると思います」

 「だよなぁ……」

 

 出る杭は打たれるというのが現実。

 アルフォンス公国も領民の七割程度がカトリコス、ヴェルナール自信がプロテスタリーの立場を示すことにより領内でのバランスを保てば?という考えがヴェルナールの脳裏をよぎったが、それは無いとすぐさま消えるのだった。


 「とりあえず首謀者には厳罰を下せ。それから領内においてのカトリコスとプロテスタリーの対立は禁止すると全領民に周知させろ」


 領民を無駄に死なせないというのは建前、納税者及び、徴兵可能人口を減らしたくないというのが本音。

 もちろん、領内を安定させたいという意図によるところも大きい。


 「しかしヴュルツブルク公、厄介極まりないな」


 ヴュルツブルク公バルバロッサの司教就任によりヴュルツブルク周辺のカトリコス教徒は勢いづいている。

 ヴュルツブルクの背後に何者かの存在があるのでは?とヴェルナールは疑い始めていた。

 そしてどうすれば司教に就任したヴュルツブルクを排斥できるのかと頭を回転させ始めた。

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