第138話 居候
「先を越されたか〜っ」
バルバロッサから送られてきた書簡を見たヴェルナールはため息混じりに言った。
「うちの動員兵数って今いくつ?」
「まさか戦争するつもりですか!?」
ノエルが「それはダメです」と全力でヴェルナールを揺さぶった。
「いや、最悪の事態を考慮してるだけだ」
「そうですか……前回の軍部からの報告によれば、おおよそ七千程度だそうです」
ヴェルナールはノエルの報告にいっそう深いため息を吐くのだった。
「全然足りてないな……シュヴァーベン同盟の動員兵数は、一万二千を軽く超えるぞ?」
シュヴァーベン大公国が主導するシュヴァーベン同盟には、他にザンクト・イェルゲンシルト騎士団領、ミュンヘベルク大公、フェルデンツ伯国、モースバッハ伯国などが加盟しておりかなり厄介な存在と言えた。
現在は、ヘルヴェティア共和国と戦争には至らないまでも激しく対立している?
「しかし、その調子で行くと軍隊が定数になるのは早くて年内いっぱいまでかかりそうだな」
「年を越す可能性も十分にあります」
「そうだよなぁ……」
ヴェルナールはそう言うと城外の演習場を見つめた。
現在は、新しく雇用した兵士達をトリスタンが練兵中だった。
アルフォンス公国は、ベルジクの大半と、エルンシュタット西半分を併呑したことにより防衛しなければならない領土の広さは数倍に膨れ上がっていた。
もちろん保有可能な兵力もこれまでの五千から一万六千(ヴュルツブルク司教領を除く)ほどまでに膨れ上がっていたが多大な人的損失を出した戦争の後だ、そう順調に兵が集まるわけなかった。
「それとエレオノーラに発注したマスケット銃はどうなった?」
「それについては本人から聞いた方がいいかもしれません」
ノエルがそう言ってチラリと執務室の扉の方を見た。
開けっ放しの扉からは見慣れた蜂蜜色のアホ毛だけが、にょんにょんと揺れているのが見えた。
「エレオノーラ、いるなら入ってこい」
「取り込み中かと思っての?」
「見ての通り、今後について話し合っていただけだ。というかお前、カロリングに戻ったんじゃないのか?」
「戻ったとも」
「で何故ここに?」
ヴェルナールはわからないとばかりに首を傾げた。
「むふふ、未来の伴侶と共に暮らすと言って父上に許可を貰ってきたのじゃ」
「俺の意思は?」
「関係あるのか?」
「いや、あるわ!大ありだわ!」
ヴェルナールは思わず素が出てしまったとそう叫ぶように言ったあと咳払いをした。
「泥棒猫がお兄様のお部屋に!?」
そこに寝ぼけ眼のままのレティシアがやって来た。
「泥棒猫とはなんじゃ!?妾は父上からもヴェルナールなら男女の仲になってもよいと言われておるのじゃ!」
「レティシア、とりあえず身支度整えてから来い。それからエレオノーラ……語弊
を招くような発言は慎むように!」
ヴェルナールが双方に対してそう言うが、
「嫌ですわ!お兄様!私はノエルルート推しなんですの!」
「男女の仲の何が悪いのじゃ?子供を授かるにはそういうこともあるじゃろう?」
突拍子もないことを抜かすレティシアに、ヴェルナールを自分のものにするためには恥も外聞も捨て去る覚悟をしたエレオノーラにヴェルナールの制止は効かなかった。
「ノエル、スマンが何とかしてくれ……」
ヴュルツブルク公の話の時よりも重たいため息をついたヴェルナールがそう言うと
「私が……閣下と…そんなことが許されるのでしょうか…/////」
と、これまた顔を赤らめたノエルにヴェルナールの指示は聞こえていなかった。
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