第137話 火種
「随分とお早い到着で」
ヴュルツブルク公フリードリヒ・バルバロッサは、とある重要人物とヴュルツブルク大聖堂において面会する約束を取り付けていた。
「出迎えご苦労」
護教騎士団に護衛された馬車より姿を現したのはタルヴァンだった。
タルヴァンは、カラファ法皇が暗殺されたことにより空座となった法皇の座を巡って誰を就けるのかと選帝侯や教団内部での対立が激化する中、最有力候補となっている。
「お前達は下がれ」
バルバロッサは従者を礼拝堂の外へと下がらせた。
そして大聖で一番の高い屋根を持つ礼拝堂に二人だけとなったとき、タルヴァンは重々しく喋り出した。
「貴殿から送られてきた書簡には目を通した。そして一考の価値があると考え実際に会うべきと考えてここまでやってきた」
「御足労に感謝致す」
「再確認するが貴殿に対し私がヴュルツブルク司教の座を与えることで貴殿は、アルフォンス公の支配下でありながらある程度の地位と権力を維持できる。加えて私はアルフォンス公に対しての工作が可能となる。こういうことで宜しいかな?」
バルバロッサは、アルフォンスに恭順こそしたが、ヴェルナールから与えられた待遇で満足するはずもなかった。
そんな彼がヴュルツブルク公として家を維持するためにとったもう一つの戦略が司教座都市ヴュルツブルクにおいて司教となることにより教会より司教領の保有を認めてもらうことだった。
ヴェルナールの用意した待遇では領地を得ることは無かったが、司教に就任することである程度の領地を存続させることが狙いだった。
「その通りで御座います」
バルバロッサがそう言うとタルヴァンは満足そうに頷いた。
「既にシュヴァーベン同盟も私に協力すること、確約されている。アルフォンス公が貴殿の司教領所有を容認しない場合、シュヴァーベン同盟との戦闘をチラつかせればよかろう」
タルヴァンは、自身の次期法皇就任のために様々な勢力とコネクションを持ち影響力を拡大させつつあった。
だが、この所大きな支持基盤を立て続けに失っていた。
誰の所業によるかと言えばもちろん、ヴェルナールの仕業だった。
カロリングと戦闘状態にあったイリュリア大同盟も、アルフォンス=エルンシュタット戦争を引き起こした大陸中央同盟もまたヴェルナールの手によって瓦解させられていた。
これによりタルヴァンは、次期法皇就任が予想よりも遅れていた。
それ故に彼は、作戦を変えたのだった。
「貴殿が望むのも、私が心より望むのもアルフォンス公を潰すこと。互いに手をとりあえば必ずや上手く事を運ぶことが出来るだろう」
不敵な笑みを浮かべたタルヴァンはバルバロッサの手を固く握った。
そしてこの日のうちにバルバロッサは、シュヴァーベン同盟への参加に署名をすると共に誓約書にも署名を行いヴュルツブルク司教へと就任したのだった。
もちろんこのことはすぐさまヴェルナールの耳に入るのだが、その頃には既に事が起きた後でヴェルナールに出来ることなど無かった。
アルフォンス=エルンシュタット戦争が集結してから一ヶ月足らず、アルフォンス公国内に静かな対立が生まれつつあった。
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