第128話 協力


 「さすがにヴェルナールでも厳しいらしいな」


 アルフォンス軍本隊がクーヴァン城に向かって敗走していく光景をエレオノーラとフィリップは呆然と眺めていた。


 「もう少し耐えてくれれば、妾が間に合ったと言うに……」


 そう言ってエレオノーラが俯く。

 それを見るに見兼ねたトリスタンが声をかけた。


 「エレオノーラ殿下は我らの閣下を最後まで信じれないのですかな?」


 トリスタンは眼光炯炯、まだ闘志を燃やしていた。


 「……そんなことはないっ!じゃが事実目の前で敗走しておるっ!」

 「ならばエレオノーラ殿下、我が双眸をご覧下さい」


 目尻に涙を浮かべたままエレオノーラは、もたげた頭を上げた。


 「お主の双眸は光を失ってはおらんな」

 「えぇ、閣下が必ず勝利を掴むのだとこの戦況を前にしても信じておりますとも」


 祖父と孫に見えるほど年の離れた二人は見つめあった。


 「エレオノーラ殿下は他国の御仁、ここで帰られてもよろしゅう御座います。あとは我々だけで戦いますとも」


 何度か戦闘を共にしたことでエレオノーラの性格をよく理解したトリスタンは、ニヤニヤしながら言った。


 「なっ……妾は一度始めたことは最後までやり抜くと決めておるっ!妾もお主らとともに戦うのじゃっ!」

 「よし、これで言質を取れましたな」

 「最初からそのつもりじゃったのか!?」

 「もちろんですとも」


 才能溢れる若者が好きなトリスタンは、エレオノーラをイジって機嫌よく笑っていた。

 そのお眼鏡にかなったのがヴェルナールや愛娘のノエルなのだ。


 「まぁ、一度言ってしまったことを今更白紙撤回するわけにも参らぬ」


 エレオノーラは、そう言って馬に跨った。

 そして、フィリップを見下ろす。


 「フィリップ、お主はどうする?妾と駒を並べて戦うか?」


 エレオノーラの問いかけにフィリップが微笑む。


 「このままでは、野晒だからな。格好がつかない。戦わざるを得ない」

 

 フィリップは立ち上がると居住まいを正した。


 「本音は?」

 「もうヴェルナールを守れそうもないし奇襲に失敗した俺の居場所はエルンシュタットにもない。それならヴェルナールの側で戦うだけだ」


 フィリップはエレオノーラに対して言うと後ろを振り返った。


 「お前たちは好きにしろ。痛めつけてきたアルフォンスに味方するのが嫌なら帰ってもいい」


 フィリップの言葉にしばし顔を見合わせるとやがて兵士達は言った。


 「アルフォンスに負けたのは我らの実力不足。何が足りないのか共に戦うことで学びたいと考えています」

 「主君について行くまでだ!」


 フィリップ麾下の四百余りの兵士達は、そのままフィリップと共に戦う道を選んだ。


 「お主の兵達は良くできておるの」


 エレオノーラは羨ましそうに言うと、没収していたフィリップの剣を手渡した。


 「親友のために一肌脱ぐのじゃ!」

 「一人でカッコイイ所を持っていかせるわけには行かないからな」


 かくして親友のために対峙した二人が手を取り合うこととなった。

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