第113話 作戦開始

 夜のうちに駒を進めたアルフォンス軍三千は、日が昇る頃にはアルデュイナの森へと到着していた。


 「では、ちくとリエージュで暴れて来ようかの」

 「武運を祈る」

 「お主もな!」


 二人で拳を付き合わせると分岐点で、それぞれの目的地へと分かれた。

 

 「トリスタン、偵察部隊を編成し先行させろ」

 「御意」


 五騎ほどの騎兵が選抜されると、森を駆け下りて先行する形でナミュールを目指した。


 「閣下、我々より早くナミュールに敵が侵攻している可能性があるのでは?」


 横で轡を並べるトリスタンが疑問を口にした。


 「その可能性は一概に無いとは言えないが、敵は二勢力による連合軍だ。そう早く動くのは難しいだろうよ」


 ヴェルナールは、さもそれが当然であるのばかりに言った。


 「確かに、二つの勢力が連合を組むというのには、実戦を前に多くの示し合わせが必要……差し出がましいことをしましたな」


 トリスタンは、そう言うと一礼した。


 「そうやって進言してくれる家臣がいるのは、君主として有難い限りだ」


 ヴェルナールとトリスタンがにこやかに言葉を交わすのをノエルは微笑ましそうに見つめていた。


 「というか、連合を組むことの大変さは、ユトランド陣営に参加して臨んだスヴェーアとの戦いで学んだ」

 「中には、歩調を乱す輩もおりますからな」


 敢えて言葉にせず、ベルジクのことを揶揄した。


 「俺は、ベルジクとの抗争もエルンシュタットとの対立も今回でかたをつけるつもりだ」

 「両国に対する国民感情もあまりよろしくありませんからなぁ。このまま野放しにしておいては閣下への国民の忠誠が揺らぎかねません」


 トリスタンの言う通りで、特にベルジクに対しての国民感情は、お世辞にも良いものとは言えないのが現実だ。

 アルデュイナの森以降、尽く邪魔だでしてくるベルジクの動向は、ヴェルナールが国内に発表しなくても従軍した兵士や吟遊詩人といった者達から、国民へと伝わってしまっていた。


 「今回は、いつもより長く甲冑を纏っていることになるとは思うが、頑張ってくれよ?」

 「閣下が心配なさらずとも、まだ誰にもアヴィス騎士団副長の座を譲る気はありません」


 トリスタンを気にかける言葉をヴェルナールが送るとトリスタンは笑って返した。


 「未だにトリスタンは、公国うちの屋台骨だからな。早々に壊れてしまっては困る」


 騎兵を用いた野戦を得意とするトリスタンは、練兵能力も高く内政においてもそれなりの活躍を見せていた。

 今でこそ補佐役の座は一人娘のノエルに譲っていたが、その敏腕は今も現在だ。

 これほどまでに有能な人材となると替えが見つからないのがヴェルナールの昨今の悩みでもあった。

 とまれかくまれ、主従が仲良く言葉を交わしながら進軍しているうちに、敵軍に先行する形でナミュールへと入ったのだった。

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