第108話 ティベリウスの思惑
時は少し戻って、イリュリア大同盟とカロリング帝国陣営が停戦した頃のこと。
「エレオノーラ、アルフォンス公の元へ嫁に行かぬか?」
今日も今日とて庭を闊歩する家鴨達に餌をやりながらティベリウスは言った。
「な、急に何を言うのじゃ!?」
寝惚けまなこだったエレオノーラは、その一言で目を大きく開けた。
「別に急なことでもないだろう。近衛兵共からは、実に仲良くやっていたと聞いておる」
「べ、別に仲良くしてた訳ではなく……気安く言葉を交わせる仲なだけじゃ!」
しどろもどろになりながらエレオノーラは言った。
「世間ではそれを仲良しと言うのだ。実際のところ、満更でもなかろう?」
「イケないわけじゃないくらいじゃ!」
「世間ではそれを満更でもないと言うのだ」
「んあぁぁんもおぉぉぉっ!今日はダメじゃ!父上とは口を聞かぬ!」
エレオノーラは、ぷいっとそっぽを向いた。
「今回は婚姻を結ばなくても良い」
「今回は?」
「婚姻するもしないもエレオノーラの意思に任せるつもりだ。我がカロリング帝国がアルフォンス公国と深い繋がりがあると周囲の諸国に認識させるのが此度の目的よ」
ティベリウスは、別にアルフォンス公国を手駒にしたい或いは懐柔したいといったような考えを抱いているわけではない。
彼にはもっと別の目的があった。
「それをして父上は、何をしたいのじゃ?」
「ふむ、気になるか?」
「曲がりなりにも、我々には借りがある。仇なす真似は、父上相手と言っても許し難い」
厳しい口調でエレオノーラが言うと
「安心せい、特段かの国に不都合になるような真似はせぬ」
諭すように言うとティベリウスは笑った。
「必ずじゃな?」
「もちろんだとも」
権謀術数渦巻く帝国の宮中で、数いる継承権保持者の中から皇帝となったティベリウスの言葉を信じることはエレオノーラには無理だった。
しかし、ティベリウスが言うつもりがないのなら水掛け論にしかならないと判断するとエレオノーラは、折れた。
「わかった。では、妾は婚姻の提案を持ってヴェルナールの元に向かうとするかの」
そう言ってティベリウスの前から立ち去ったエレオノーラの足取りが軽いことをティベリウスは見逃さない。
「なんと
後ろ姿を見送るティベリウスは、一人そう零した。
◆❖◇◇❖◆
「閣下、カロリングから書簡が届いてますが?」
帰国したヴェルナールを追うように、エレオノーラがアルフォンス公国へと赴く知らせはクーヴァン城へとたどり着いていた。
「あぁ〜疲れた。後で、いや……そのうち見るからその辺に置いといてくれ」
帰国したヴェルナールは、執務室のソファーにドカッと倒れるように横たわると鼾を立て始めるのだった。
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