独立戦争

大陸中央同盟

 「あーマズイ!かなりマズイ状況になったぞこんちくしょう!」


 ヴェルナールは、執務室の中を行ったり来たりしてやり場のない感情をどうにかしようとしていた。


 「嘆いたって今更変わらないのですから、対応策を練りませんか?」


 ノエルに落ち着けと言われる始末。

 何が起きたのかと言えば、ヴェルナールが無事に帰国した七月中旬、大陸諸国を震撼させる事件が起きた。

 現ミトラ教において法皇であるカラファ法皇が何者かによって暗殺されたのだった。

 これに伴い水面下では、誰を空座となった法皇の座に就けるのかで対立が起き始めていた。

 だが、これについてヴェルナールは特段問題視していなかった。

 問題はその後だった。


 「どうして、俺の敵同士が手を組んじゃうのかなぁっ!?」


 ボサボサになった髪を気にすることなくヴェルナールは、執務室の椅子に腰掛けた。

 そう、エルンシュタット及び、ベルジク王国、北プロシャ選帝侯がライン同盟の締結を宣言したのだった。


 「しかもタルヴァンを次期法皇に担ぎ出すとか、頭沸いてんだろ!?」

 

 タルヴァン派の後ろ盾であった大陸東部の主要国であるオストラルキ大公国、ワラキア大公国は過日の戦争で国力を大幅に削がれていた。

 オストラルキ大公国は、首都ビエナのすぐ近郊までミュンヘベルク大公率いる救世軍が迫り停戦はしたものの、国土の大半は焦土となり荒廃していた。

 一方のワラキア大公国は、ダキア領とモルダヴィア領で大規模な反乱が起き泥沼の内戦へと突入していた。

 そういうわけでタルヴァンが後ろ盾としていた大陸東部の諸国家は、現在後ろ盾として機能し得る状態には無かった。

 そこで目をつけたのが、エルンシュタットやベルジクといったような国々だった。


 「絶対敵視されてるよなー」


 エルンシュタットには、一方的に独立を宣言し冬に戦争をしたばかり。

 そしてベルジクとも冬に戦争をしているし、つい先日もジルベルトの報告によればナミュールで戦闘になったとか……。


 「どちらも、友好国とは程遠い関係ですね……」


 ノエルがため息混じりに言った。


 「軍部には、備えと作戦立案をさせておくべきだな」


 救世軍としての一連の戦闘においては、銃騎兵の有用性が確認できた。

 おかげでとれる作戦の幅も広がるというもの。

 更には、ヴァロワ朝の内戦で獲得した領地もある。

 動員兵数は既に五千近くに達していて、ベルジク単独なら勿論、相手取ることはできる。

 エルンシュタットとベルジクは、かつて戦争をした間柄、急遽できた同盟がそんなに上手く機能するはずはない。

 そう思ってタカをくくっていたのは昨日の事だった。


 「閣下、エルンシュタット及びベルジク軍が各王都にて、部隊の招集を始めたとのこと!」


 珍しく冷静さを欠いたノエルが執務室の扉を開けて入って来た。


 「え……今なんて?」


 表情を失い首を傾げるヴェルナール。

 一難去ってまた一難、小国アルフォンス公国は再び戦禍へ巻き込まれようとしていた。


◆❖◇◇❖◆

新章突入です!

ようやくタイトルにたどり着いた感じではありますが、よろしくお付き合いください

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