第102話 漸減邀撃

 タルビジオをアルフォンス軍及びカロリング帝国近衛兵団の騎兵部隊が奪ってから二時間間、タルビジオ陥落の報を報告すべく這う這うの体で一人の兵士がトルミンの要塞に駆け込んだ。

 複数人でトルミンを目指したはずだったが、いつの間にか彼一人になっていた。

 「申し上げます!?タルビジオの要塞は敵の猛攻を受け陥落しましたッ!」


 崩れるように馬から降りた兵士は、そのまま地面を這うようにしてトルミンを守る指揮官の前でそう告げた。


 「タルビジオが落ちただと?」

 「はい、騎兵部隊により要塞は陥落しました」

 「騎兵部隊であの要塞が落とせるものか!?……さては、木戸より打って出たのか?」 

 「敵将二人が木戸の前で出てきて我らを愚弄したのです!」

 

 一緒に戦った味方は決して愚か者ではないく勇気を振り絞り必死に戦って散った英雄だと言いたげだった。

 が、指揮官はそれに取り合うような憐憫はみせなかった。


  「敵の軍勢は如何程か?」


 トルミンの峠を預かる指揮官は、戦慣れしたワラキア公国の人間だった。


 「千近くはいたかと……それに銃兵も混じっていました」

 「チッ……厄介な」


 ワラキアの指揮官は、しかしほくそ笑んだ。


 「だが敵の騎兵は、それらで全部だろう。となればこの兵力でも十分勝てる」

 

 そう言うと紙に何かを書き、部下の一人を呼ぶとその紙を持たせてツェルノクへと走らせた。


 「お前達、これから敵騎兵集団を叩きに行くぞ!」


 そう宣言すると出立の準備を急がせるのだった。


 ◇◆◇◆


 「妾、なんだか嫌な気がするのじゃが」


 ヴェルナールと駒を並べて馬に揺られるエレオノーラは、道の先にある山を指さしながら言った。


 「僅かだが明るいな……」

 「誰ぞ、偵察してまいれ」


 エレオノーラは頷くと二騎の騎兵を明るい方へと向かわせた。

 三十分ほどすると向かわせた騎兵が帰ってきてエレオノーラに報告をした。


 「敵の大軍が山を降りていました。長い山道であるので兵数は不明ですか峠にいた全部隊と思われます」


 その報告を隣で聞いていたヴェルナールは、ため息をついた。


 「想定はしていたが、いざとなると面倒だ」

 「妾は撤退するべきだと思うが?このままでは神速を旨とする騎兵野有利性が不利となることは間違いないじゃろう」

 「だが少しの損失も与えずに退却するのは面白くない。漸減邀撃に切り替える」


 槍衾に騎兵突撃を仕掛けては壊滅の憂き目を見ると判断したヴェルナールは、時間がかかるが迎え撃つことを選んだ。


 「銃騎兵の出番じゃな?」 

 「そういうわけで、お前はトリスタンと一緒に要塞に戻って迎撃準備を整えてくれるか?」

 「それはお断りじゃ」 

 「と言われても、飛び道具も無しに出来ることがあるのか?」


 ヴェルナールの質問にエレオノーラは自らの部隊を指さした。


 「ふふん、敵の武器をありがたく使わせて貰うことにしたのじゃ」

 

 エレオノーラ麾下の騎兵達の中には少数ではあるが弓をもった兵がいた。


 「なるほど、それなら頼りにさせてもらおうかな」

 「任せておけ」


 エレオノーラは、敵の弓箭兵の残した弓と放った矢を回収して自分の部隊に持たせていたのだった。

 かくして、ヴェルナールは重騎兵四百をトリスタンに預けて要塞に戻すとエレオノーラの弓騎兵と自らの銃騎兵とその場に留まり迎え撃つ用意を進めるのだった。

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