第101話 タルビジオ陥落
「銃騎兵、構えーっ!撃てぇっ!」
道一面に並べた銃騎兵が斉射すると爆音と紫煙、そして
「ひ、退けっ!」
これには敵も堪らず蜘蛛の子散らしたように逃げ帰る。
「全隊、突撃!」
これを逃す手はない。
ここで逃せば敵は再び木戸を閉ざし二度と出てくることはないだろう。
「ヴェルナールに負けるな!木戸を破って一気に押し込め!」
エレオノーラも俺に負けじと近衛兵団に突撃の指示を出す。
「し、閉めろ!」
「しかし、もう少しで味方が辿り着く!」
「早く来い!後ろに敵が迫っているぞ!」
イリュリア大同盟軍の兵士達は、固唾を飲んで味方の退却を見守る。
一心不乱に武器も捨て退却する敵兵の背に、騎兵達の槍が容赦なく襲いかかる。
「ガバッ!」
馬脚を乱さないために、突き刺しはしない。
槍を上から振り下ろして終わりだ。
馬上から振り下ろされる槍には、それだけの力がある。
槍を振り下ろされれば当たりどころによっては昏倒するし、そうでなくても骨折くらいはさせられる。
足が止まったところを馬によって突き飛ばされるか踏みつけられるかのどちらかだ。
「もう無理だ、このままじゃ俺たちまで殺られちまう!閉めろ!」
「閉めないでくれー!助けてっ!」
「見捨てるか仲間を!?」
要塞の兵達は、近づきつつある騎兵を前に意見が分かれていた。
「どけ、閉めるっ!」
一人の兵士が扉を強引に閉めようとすると、仲間の兵士から押さえつけられた。
「馬鹿野郎!あと少しなんだ!」
「閉めなきゃ、もっと多くの味方が死ぬんだぞっ!」
言い合いもつれ合う敵兵達に馬上の騎兵から鉛玉が放たれる。
「グホッ……ほら見ろ……っあぁ」
これが銃騎兵の強みだ。
敵との距離を詰めている間に発砲ができる。
そして銃は馬に取り付けてあるホルダーに突っ込み、剣を抜くのだ。
銃兵ではあるが騎兵としても運用できる。
この発想をくれたベルジクの弓騎兵達には当面、足を向けて寝れそうにないな。
結局、打って出てきた敵兵は一人として木戸をくぐることはなかった。
代わりに木戸をくぐったのは千百の騎兵だ。
「思ったより呆気なかったのぉ」
「お前の機転のお陰だな」
「そうじゃろうそうじゃろう!」
エレオノーラは、機嫌良さそうに言った。
「ほれ、妾に感謝するのじゃ!」
「ハイハイ、ありがとうございました」
「なんじゃ、その適当な感謝のしかたは!?」
憤慨するエレオノーラを尻目にここからの行動の指針について頭を巡らす。
タルビジオの要塞攻略は、もはや決したと言っても良さそうだ。
このまま小休止を挟んだとしても、夜半にはツェルノクに到着できる。
ひょっとしたら一晩のうちに片をつけることが出来るかもしれない。
そう思った。
だが現実はそう甘くは無かった――――。
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